出社義務の是非よりも、「従業員が大切にされている」と実感できる組織文化が重要である。経営層やマネジャーが「ケアの視点」を持ち、信頼に基づく心理的契約を再構築することが持続的な組織のエンゲージメントとパフォーマンスを支える。
問題提起
- 多くの企業がパンデミック後に出社を再義務化する中、従業員との間に強い摩擦が発生している。
- 背景には「心理的契約(暗黙の期待関係)」の崩壊がある。
- 雇用者:全員に平等なルールを適用する「正義の倫理」に依存。
- 従業員:自分の状況や努力への配慮=「ケアの倫理」に基づく公平を重視。
核心主張
- 出社義務化への反発は、ポリシー内容ではなく、信頼の喪失と心理的契約のズレが原因。
- 一律ルールではなく、「個別性」「感情」「関係性」に配慮する「ケアの倫理」が鍵となる。
ケアの倫理とは
- 元はキャロル・ギリガンの道徳心理学から派生。
- 普遍的正義よりも「状況依存性」や「人間関係」「共感」を重視。
- 適切な組織運営では、以下の3つの問いが重要:
- 何が正しいか(正当性)
- 何がうまくいくか(実効性)
- 何が重要か(個別的な価値)
組織への応用事例
成功例:CMG社(スペイン)
- 工場労働者には週4日勤務、事務職にはハイブリッド勤務を提供。
- 試験導入→従業員の感情やニーズへの傾聴→全社展開。
- マネジャーに傾聴と対話の訓練を行い、ケアを組織文化に内在化。
失敗例:デル社
- 一律の出社ルールを通達、従業員に選択の余地なし。
- ID追跡・昇進制限など厳格な運用が信頼を損ねた。
- 一方で、柔軟に対応したマネジャーのチームは高いエンゲージメントを維持。
提案:ケアの倫理に基づく心理的契約再構築の3原則
- 人間関係における近接性の重視
- 単なる出社ではなく、共感・非言語・感情的つながりがカギ。
- リモートでも意図的に“人間らしい瞬間”を設計する(例:雑談タイム、対面イベントの定期開催など)。
- 柔軟でローカルな対応の促進
- 大組織では一律ルールではなく、多様な「個別契約」が必要。
- ラインマネジャーが中心となって従業員と信頼関係を構築すべき。
- ケアの文化を支える組織設計
- ケアは「設計できない」が、「育まれる条件」はつくれる。
- 対話・共感・傾聴のスキルを育み、制度として柔軟な選択肢を用意する。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“The Workplace Psychological Contract Is Broken. Here’s How to Fix It.,” HBR.org, May 06, 2025.