本稿は、1次面接候補者の選定をマネジャーから人事部に移管したことで女性の採用比率が有意に上昇したという実証研究に基づき、採用における無意識の偏見の軽減と公平性の向上に関する知見を紹介している。
採用初期段階の判断を人事部に任せることは公平性と多様性の向上につながる有効な施策である。最終的な決定権をマネジャーに残すことで、現場の知見を活かしつつ無意識の偏見を軽減できる。小さな制度変更が大きな組織文化の変化を生む可能性を示した研究である。
研究の背景と手法
- 対象は多国籍テクノロジー企業(アルファ社)。
- 2018年に採用プロセスを段階的に変更:
- 旧プロセス:マネジャーが全応募者を確認し、面接対象を決定。
- 新プロセス:人事部が最初の候補者7名を選定し、最終決定はマネジャーが行う。
- 導入目的は本来、採用スピード向上であった。
主な研究結果
- 女性の採用率が平均9.2%増加。
- 特に女性の職業進出が困難な文化的背景の国々で顕著。
- マネジャーの主観的判断や推薦に頼る傾向が従来の男性偏重を助長していた。
- 一方で、人事部は客観的要件や職務適合性を重視して候補者を絞り込んだ。
なぜ効果があったのか
- マネジャーは採用を本業と考えず、時間的制約から偏った判断をしやすい。
- 人事部は採用を主要業務と捉え、一貫した評価に時間と労力を投じる。
- 結果として、人事部による選考はより多様な候補者に機会を提供。
組織に起きた変化
- 人事主導により、マネジャーの満足度も上昇(60% → 82%)。
- マネジャーと人事の役割分担が明確化され、協働関係も強化。
組織への示唆
- 本研究は、他の属性(例:男性看護師の採用、年齢・人種など)にも応用可能な知見。
- 採用プロセスにおいて、AIの活用は補助的手段として慎重に使うべき。
- AIに偏ったデータを学習させれば、逆に偏見を再生産する恐れも。
- 最善のアプローチは、人間の判断とAIの併用。
注意点と限界
- 本研究は、採用後の人材のパフォーマンスや定着率の検証は未実施。
- 他の多様性軸(人種、年齢など)への効果は検証外。
- 人事とマネジャーの協働が採用以外に与える影響(文化・信頼関係など)は未解明。
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“Research: The Benefits of Letting HR Decide Who Gets an Interview,” HBR.org, May