変化が激しい現代において組織が持続的に成長するには、部下が自律的に考え行動することが不可欠である。しかし現実には、成果主義や失敗回避志向の影響で「指示待ち」傾向の部下が増えている。上司が力で動かそうとしても効果は限定的であり、信頼と理解に基づく関わり方が求められる。
本稿では、部下の自律性を引き出すための3つのステップを提案している。
部下の自律性を育むには、上司が自らのスタイルを見直し、部下の特性を理解したうえで心理的安全性のある環境を粘り強く作ることが重要である。権威的に叱責する信長型や巧みにおだてる秀吉型ではなく、対話を重ねながら部下の成長を待つ「家康型」の姿勢が最も効果的だと論じている。
- 自分のリーダーシップタイプを把握する
- 三隅二不二のPM理論を用い、自分の行動が「課題達成(P)」と「人間関係維持(M)」のどちらに偏っているかを自己評価する。
- 理想は両立できる「PM型」だが、状況に応じて柔軟に行動することが重要。
- 部下の特性を見極める
- 部下を観察し、性格や動機づけを把握する。特に「制御焦点理論」に基づき、部下がリスクを取って挑戦する促進焦点型か、安全志向の予防焦点型かを見極める。
- 上司は自分のスタイルと部下の特性との適合を考慮し、働きかけ方を調整する。
- 心理的安全性を醸成する
- 部下が率直に意見を言える環境を整えることが鍵。
- 失敗を叱責ではなく「学びの機会」として扱い、対話を通じて安心感を与える。
- 上司は発言を控えめにし、聞き役に徹することで部下の主体性を引き出す。
詳細は下記参照。
三隅二不二 『リーダーシップ行動の科学』有斐閣、1984年
吉田道雄、三隅二不二、山田昭、三角恵美子、桜井幸博、金城亮、松田良輔、松尾英久、徳留英二「リーダーシップ PM 理論に基づくトレーニングの開発」『INSS Journal』Vol.2、pp.214-248、原子力安全システム研究所、1995年
E. Tory Higgins, “Promotion and Prevention: Regulatory Focus as a Motivational Principle,” In Mark P. Zanna (Ed.), Advances in Experimental Social Psychology, Vol.30, pp.1-46. Academic Press, 1998.
Amy C. Edmondson, Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy, John Wiley & Sons, 2012.(邦訳『チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』英治出版、2014年)