不確実性が高まる現代において、リーダーには専門知識よりも「価値観に基づき行動する日常的な勇気」が求められている。本稿は、勇気を「英雄的資質」ではなく鍛えられるスキルと位置づけ、6つのタイプに分類して解説している。これらの勇気は、リーダーが日々の意思決定の中で信頼や組織文化を形づくるための実践的な力である。
リーダーシップにおける勇気とは、劇的な場面での英雄的行為ではなく、「不確実な日常の中で一貫して価値観に基づいて行動する力」である。この日常的な勇気は、組織の信頼を築き、チームの心理的安全性と倫理観を支え、持続的なリーダーシップの基盤となる。「日常的な勇気」は、リーダーが不確実性の中で信頼される決断を下すための最も実践的なスキルであり、価値観に忠実であろうとする小さな勇気の積み重ねこそが、真のリーダーシップをつくる。
勇気の本質
- 勇気は生まれつきの特性ではなく不安やリスクの中で一貫して価値観に基づく行動を取り続けることで鍛えられる筋肉のようなもの。
- 英雄的な瞬間ではなく、日常的な判断や行動の積み重ねがリーダーの信頼・文化・レガシーを形づくる。
6つの日常的な勇気のタイプ(本稿では主に4タイプを詳説)
① 道徳的勇気(Moral Courage)
定義: リスクを承知で、自らの原則や価値観に沿って行動する意思。
実例: 倫理に反する企業からの資金提供を拒否した大学幹部。
育み方:
- 自分のコアバリューを明確化・可視化する。
- 危機時に迷わないよう、事前に「もし〜なら〜する」ルールを設定する。
② 社会的勇気(Social Courage)
定義: 恥や拒絶、孤立のリスクを恐れず、必要な意見を述べる意思。
実例: 会議で発言を軽視された新メンバーを守り、異なる意見を促したCPO。
育み方:
- リスクを認識した上で明確に発言する(例:「流れに逆らうかもしれませんが…」)。
- 異議を歓迎する文化を醸成する(反対役を設定する、感謝を示すなど)。
③ 感情的勇気(Emotional Courage)
定義: 不快な感情(恥、後悔、恐怖など)から逃げずに向き合い、誠実に表現する意思。
実例: 失敗したプロジェクト後、レイオフの説明を自ら行い、従業員の感情に寄り添ったCOO。
育み方:
- 感情を認識し、適切な形で共有する(支配されず、隠さず)。
- 感情を言語化して整理する(例:感情を3つ書き出し、1つに名前をつける)。
- 「この件をなかったことにはしません」といった誠実な言葉で責任を示す。
④ 知的勇気(Intellectual Courage)
定義: 自分の前提を疑い、知らないことを認め、異なる意見に耳を傾ける姿勢。
意義: 学習やイノベーションを促進し、慣れや思い込みによる誤判断を防ぐ。
実例(抜粋): 市場変化に応じて、長年擁護してきた主力製品の方向性を見直そうとするVP。
要点まとめ
| タイプ | 方向性 | コアテーマ | 鍛え方の要点 |
|---|---|---|---|
| 道徳的勇気 | 原則を守る | 倫理・価値観 | コアバリューの明確化・事前シナリオ |
| 社会的勇気 | 声を上げる | 関係性・同調圧力 | 異議を歓迎する文化の形成 |
| 感情的勇気 | 感情に向き合う | 内省・誠実さ | 感情の認識・言語化 |
| 知的勇気 | 思考を問い直す | 学習・変革 | 前提の疑問・他者の視点の受容 |
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“6 Ways to Practice Everyday Courage,” HBR.org, August 05, 2025.