企業では業績プレッシャーによって「楽観性バイアス」が生まれ、リスクを過小評価したり前向きすぎる予測に流されたりすることがある。倫理研修や規則だけでは防ぎきれないこの問題に対し、筆者らの研究は「チーム内のジェンダーダイバーシティ」が強力な抑制効果を持つことを実証した。
ジェンダーダイバーシティは単なる理念やポリシーではなく、プレッシャー下でのバイアス抑制・誠実な意思決定・リスク管理強化を実現する構造的な仕組みである。組織が誠実さを維持したいなら、「規則をどうするか」だけではなく、チームの構成をどうするかを戦略的に考える必要がある。
1. プレッシャーが誠実さを曇らせるメカニズム
- 業績要求や組織文化により、客観的判断より「チームとして前向きであること」が優先されがち。
- その結果、本来のリスクを軽視する「楽観性バイアス」が生じやすい。
2. 形式的な規制・研修には限界がある
- 金融業界のような競争の激しい領域では、規則があっても非倫理的行為はなくならない。
- 日々のチームの力学が倫理的判断を左右するため、チーム内文化の構築が不可欠。
3. 大規模データ分析から導かれた「ジェンダーダイバーシティの効果」
筆者らは、11年間・3400名以上の金融アナリストの6万3000件の目標株価予測を分析。
主要な結果:
- 女性比率が高いチームほど、楽観性バイアスが一貫して低い。
- 特に「利益相反が大きい=最もプレッシャーが高い」場面で効果が最大。
- チームの女性比率を8%ポイント増やすだけでバイアスが最大12%減少。
4. 女性が慎重だからではなく、「チームダイナミクス」が変わる
- 個々の男女の慎重さには差がなく、単独では同じように楽観的。
- しかし、混成チームでは男女双方の楽観性が抑えられ、より客観的な判断が促される。
- ダイバーシティが文化を変え、その文化が行動を変える。
5. 因果関係も確認済み
- 多様性の高いチームに異動したアナリストは、直後からバイアスが低下。
- 合併により突然多様性の高いチームになった場合にも同様の効果。
- 「倫理的だから女性が多い」のではなく、女性比率の高さが倫理性を高めることが統計的に裏付けられた。
6. リーダーへの示唆
- 新しい規制や強制よりも、ジェンダー構成の改善という「ソフトな規制」の方が有効な場合がある。
- 多様性は誠実さを高めるだけでなく、リスク管理の質向上、意思決定の信頼性向上、組織レジリエンスの強化につながる。
- 均質なチームでは盲点が増幅されるため、「誰がチームにいるか」が重要な戦略論点となる。
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“Gender Diversity Helps Teams Maintain Integrity Under Pressure,” HBR.org, September 09, 2025.