AIの進展に伴い、多くの企業でエントリーレベル職種が削減されつつある。しかし、こうした動きは短期的なコスト削減には寄与する一方で、長期的には組織の健全性・イノベーション力・社会全体の安定を損なう「近視眼的な判断」である。本論文は、エントリーレベル職種が果たす本質的な役割を整理し、AI時代に求められる再設計の方向性を提示している。
AIが定型業務を担うようになったからこそ、エントリーレベル職種は単なる作業担当ではなく「学習と成長の起点としての役割」へと進化すべきである。企業が今行うべきは削減ではなく再設計であり、それは組織の競争力・文化・社会の健全性を守るための重要な投資である。
1. なぜエントリーレベル職種を残すべきか(4つの理由)
① 将来のリーダー・専門職を育てる基盤
- 有能なリーダーは例外なく基礎業務から成長している。
- 初歩的な業務を経験することで視点・判断力・現場感覚が身につく。
- エントリーレベルの撤廃は、成長の階段を壊すに等しい。
② 現場に根差したイノベーションの源泉
- 若手は既成概念に縛られず改善点を見抜く力がある。
- AIは一貫性は高いが変動性がなく、突破的な発想を生みにくい。
- 草の根の気づきがなければ競争優位は築けない。
③ 多世代が混じり合う健全な組織文化の維持
- 若手がいない組織は活気を失い、視点が均質化し、文化が停滞する。
- 年齢の多様性は創造性と刷新サイクルの維持に不可欠。
④ 社会の安定のため
- エントリーレベル職は若者の目的意識・帰属意識を形成する役割を持つ。
- 大量の若者が仕事を持てない社会は不安・疎外・犯罪リスクに直面する。
- 若者の就労機会を確保することは企業の社会的責任でもある。
2. AI時代のエントリーレベル職種をどう再設計するか(4つのステップ)
① タスクの設計を見直す
- 単純作業ではなく、業務の「背景・目的」を理解できる役割に。
- AIが自動化し、人間は解釈・判断・問題発見に集中。
② AIを補完するスキル育成に注力する
- 経験が浅い人ほどAIに依存しがちで、判断精度が下がる傾向。
- 「レッドチーム」演習のように、AIの出力を批判的に検証する訓練が重要。
- AIは“高速だが誤る存在”として、知的パートナーに位置づける。
③ ワークフロー全体を再構築する
- 「AIに置き換える」発想ではなく、人間×AIの分業を最適化。
- 人間は不確実性・関係構築・洞察が求められる領域へ。
- 若手には対話・調査・分析・設計などの価値創造的な工程を経験させる。
④ 人材育成機能を明確に組み込む
- プレッシャーや曖昧さに向き合う経験が、判断力・レジリエンスを育む。
- 医療やジャーナリズムの例のように、実践を通じてしか得られないスキルは多い。
- “挑戦を取り除きすぎる”と、人は成長しなくなる。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“The Perils of Using AI to Replace Entry-Level Jobs,” HBR.org, September 16, 2025.