多くの企業では、従業員がリスクを伴う行動(率直なフィードバック、難しい意思決定、対立の表明など)を避ける傾向がある。これは組織の改善や成果創出を妨げる大きな要因となる。筆者らの調査によれば、人々が「本来取るべきだと考えるリスク」と「実際に取るリスク」には 平均8%のギャップ(=「最後の8%」)が存在する。この8%を埋めることが、イノベーションや高成果につながる“賢明なリスクテイク”の鍵となる。
賢明なリスクテイクを促すには、心理的安全性(つながり) × 率直さと説明責任(勇気)の両方を組織文化として醸成することが不可欠である。「最後の8%」に踏み込める文化を育むことで、組織はより速い改善、より高い成果、より健全な関係性を手に入れることができる。
1. 人がリスクを避ける理由
- 人間には生物学的に「自分を守る」性質があり、成果へのプレッシャーが強いほどその傾向が強まる。
- リスクある行動(率直な発言、難しい意思決定)は、脳にとって“危険な行動”とみなされやすい。
- 結果として、必要な行動を避けてしまい、重大な問題が発生する。
例:
ある自動車部品メーカーでは、上層部への率直なフィードバックが行われず、2年おきに8,000万〜1億ドル規模の損害(“ビッグイベント”)が生じていた。典型的な「CEO病」による情報遮断である。
2. 「最後の8%」とは
- 会話中、言いたいことのうち 平均7.56%(約8%)を話さない。
- 難しい決定や相手の不興を買う可能性がある案件ほど、この8%が現れやすい。
- この8%の回避が、組織の改善・スピード・価値創出を阻害する。
3. 高成果チームを支える2つの柱
筆者らは、7万2000人のデータから、賢明なリスクテイクと高成果を生む組織文化は、以下の2つの柱で構成されると結論づけた。
① 強いつながり(Strong Connection)
- 自分が大切に扱われている、意見が尊重されているという感覚
- 心理的安全性
- 信頼関係
② 強い勇気(Strong Courage)
- 難しい行動(率直な指摘・説明責任など)を取る能力
- それを後押しする環境・スキル・規範
両方がそろってはじめて、「最後の8%」まで踏み込む行動と文化が形成される。
4. リスクテイクを阻害する3つの文化類型
① 家族型(強いつながり × 弱い勇気)— 37%
- 心地よいが「難しい話を避ける」
- グループシンクが発生し、率直な指摘や厳しい意思決定ができない
- 説明責任やスピードが欠け、成果は凡庸
② 取引型(弱いつながり × 強い勇気)— 14%
- 短期成果優先、冷淡で厳しい指摘が多い
- 勇気はあるがスキルと配慮が伴わない
- メンバーの献身性・熱意が低下し、燃え尽きや離職につながる
③ 恐怖型(弱いつながり × 弱い勇気)— 16%
- マネジャーが一貫せず予測不能
- 人々は萎縮し発言しなくなる
- リスクテイクは完全に停止
5. 理想:強いつながり × 強い勇気 の文化
- 信頼があり、率直さが求められ、説明責任が果たされる
- “居心地の良さ”と“厳しさ”の両立
- イノベーション、改善スピード、成果が高まる
この文化こそが、「最後の8%」に踏み込み、組織を前進させる。
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