企業が最良の意思決定を行うには、ニュースの見出しではなく、客観的かつ信頼できる経済データを基盤に考えることが重要である。2025年の状況を踏まえ、本稿では企業が直面する注目すべき指標とリスクを整理している。
企業は意思決定において、「見出し」ではなく「データ」を基盤にすることが重要であり、特に以下を注視するとよい・不確実性が増す中でも、正しいデータの読み解きが最良の意思決定につながる としている。
- 労働市場の耐久性
- 消費支出の動向
- 実効関税率とその影響
- FRBの独立性を巡る市場の反応
- ドルと長期金利の連動性の崩れ
1. データの信頼性は維持されている
・トランプ大統領がBLS(労働統計局)長官を解任したことで、データ操作の懸念が浮上した
・しかし、不正操作の証拠はなく、専門家や研究者が検証可能なため、改ざんは実質的に不可能
→ 政府の経済統計は引き続き信頼できる前提で判断してよい
2. 注視すべき主要テーマ(企業の意思決定の焦点)
- 消費と労働市場は持ちこたえているか
- 関税の経済への影響はどこまで進んでいるか
- FRB(米連邦準備理事会)の独立性を巡る政治リスク
- 投資家がドル離れを起こしているか
3. 労働市場:減速の兆しはあるが、悪化とは言い切れない
・雇用の伸びは予想を下回り、減速傾向
・ただし 失業率は4.2%と低水準を維持
・移民減少や国外退去政策が統計に影響している可能性
→ 労働市場は弱さも見えるが、崩れているとは言えない
4. 消費者支出:今のところ堅調
・政府データでも民間データ(NIQ)でも、消費の減速や負担増の顕著な兆候は見られない
・米国経済の主軸が個人消費であるため、今後も継続監視が不可欠
5. 関税の影響はまだ完全には発現していない
・トランプ政権の関税政策がすべて実行されれば、実効関税率は約20%に達する見込み
・現状(6月時点)は約10%にとどまる
・輸入業者が関税免除の国(例:カナダ)への切り替えを進めたため
→ 関税が経済に与える影響は、まだ“織り込み途中”である
6. FRBの独立性への懸念と長期金利の動き
・FRB人事を巡る政治的動きが、独立性の低下懸念につながっている
・市場がFRBへの政治圧力を感じると、期待インフレ率の上昇 → 長期金利の上昇につながり得る
→ 金利の長短の動きからリスク認識を読み取る必要がある
7. 投資家のドル離れは限定的だが、異例の動きが出ている
・4月に「米国売り」が話題になったが、ドル価値は歴史的水準と大きく乖離していない
・ただし以下の“異例の現象”が発生:
- 米国債利回りが上昇しているのにドルが弱含み
- FRBが利下げするなかで長期金利が上昇
→ 海外投資家のリスク懸念が強まっている可能性
8. 全体評価:経済は現状維持だが、不確実性は高い
・米国経済は着実に前進しており、見出しほど悲観的ではない
・しかし関税や政治リスクなど、“吸収しきれていない不確実性”が依然として残る
→ 企業は感情に流されず、経済データを継続的に追跡する姿勢が不可欠
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“The New Economic Data Companies Need to Be Watching,” HBR.org, September 02, 2025.