本論文は、「キャリア・家族・健康・地域社会など、複数の人生目標は必ずしも対立しない」という新しい研究成果を紹介している。筆者らの研究によれば、複数の目標同士の“つながり”を意識し、互いを 促進・補完する関係(シンフォニー) として捉えることで、モチベーション、生産性、ウェルビーイングが高まり、ストレスやバーンアウトが減少する。
複数の目標は対立するものではなく、視点を変えれば“シンフォニー”として調和させることができる。この調和的な認識を育てることで、モチベーション、生産性、ウェルビーイング、持続的成長、職場の協働 が大きく向上する。鍵は、日々の行動のなかに「複数の目標が結びつくポイント」を見出すこと。これにより、犠牲を払わずとも、より豊かな人生設計が可能になる。
1. 目標は「選ぶ」ものではなく「織り交ぜる」もの
マリー・キュリーの例のように、複数の役割(科学者・母親)が調和して存在し、互いを高め合うケースがある。人生の目標は多様だが、必ずしも葛藤を伴う必要はないという。
2. 研究が示した“目標の調和”のメカニズム
10カ国・11サンプルにおよぶ大規模調査の結果、調和を強く感じる人の特徴は主に2つ:
- 促進的なつながり:
例)キャリアの成功 → 余暇の資金になる - 補完的なつながり:
例)余暇でリフレッシュ → 仕事の質が上がる
これらの認知を持てる人ほど、
- モチベーションが高い
- 生産性が高い
- ストレスが少ない
- バーンアウトしにくい
- 将来への期待が大きい
という恩恵を得やすい。
さらに、この「つながりを見出す力」は後天的に習得可能である。
3. 目標の調和を生み出す方法
(1) 目標を精神的に統合する
まず、自分の主要目標(仕事・健康・家族・地域など)とそれを達成する行動を書き出し、
「どうつながるか?」
「どの活動が複数の目標に同時に寄与するか?」
を探索する。
例:
- 仕事 × 余暇:「リラックスが仕事効率を上げる」
- 健康 × 経済:「健康なら医療費が少ない」
- 家族 × 地域:「家族でボランティアに参加する」
これにより「調和感」が大きく増加することが実証されている。
4. 文化的背景も調和感に影響する
集団主義的文化(中国・インド・メキシコなど)は、調和、葛藤回避 を重視するため、自然と目標間のつながりを見出しやすい。
一方、個人主義的文化(米国・ドイツなど)は、目標を独立したものとして捉えやすい傾向がある。
5. 調和がもたらす実践的メリット
(1) モチベーションが向上する
「一石二鳥」の状態を認識できるため、努力への意欲が長く続く。
(2) ストレス・バーンアウトが減る
目標が“奪い合う”ものではなく“支え合う”ものに見えることで心理的負荷が軽くなる。
(3) 職場での助け合いも促進される
他者支援(メンタリング)が自分の成長にもつながると考える人は、他者の成果のための行動が17%増加、自分の成果は維持 という結果が得られた。リーダーにとっては、「他者の成長支援=自分の成長」という意識を組織に醸成することが重要である。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“How to Create Harmony Between Your Personal and Professional Goals,” HBR.org, September 19, 2025.