職場の深刻な分断の正体は「政治思想」ではなく「道徳的推論スタイル」の違いにある。分断の時代に必要なのは、人の政治的立場を変えることではない。求められるのは、「価値観の硬直性」と「柔軟性」を見極め、両立させる意思決定設計力である。この力を備えたリーダーは、対立を抑え、信頼を維持し、分断が激しい環境下でも組織を前進させることができる。
1. 分断の本質:イデオロギーではなく「道徳哲学」
職場で起こる激しい対立は、左派・右派といった政治的立場の違いではなく、道徳的絶対主義と道徳的相対主義という、価値観の扱い方の違いに起因することが多い。
- 道徳的絶対主義
- 価値観は普遍的・例外不可
- 妥協=裏切り
- 「常に」「決して」「譲れない」という言語を用いる
- 道徳的相対主義
- 価値観は文脈・文化依存
- 妥協=知恵
- 「バランス」「状況次第」「トレードオフ」を重視
この違いは政治的立場を超えて存在し、イデオロギーよりも行動や政策態度を強く左右する。
2. なぜリーダーは対立を誤診するのか
多くのリーダーは対立を「思想の違い」と捉え、事実・データ・道徳的言語による説得を試みる。しかし、絶対主義者は価値観に関わる問題では説得されず、むしろ反論やデータ提示が逆効果になる。相対主義者は文脈や代替案の提示によって合意形成が可能、この違いを見誤ると、的外れな説得に労力を費やすことになる。
3. 職場で現れる典型的な対立テーマ
この「隠れた哲学的分断」は、日常の経営課題に表れる。
- サステナビリティ(環境 vs 収益)
- 出社再開・リモート勤務
- 企業の社会的発言(沈黙か行動か)
- 健康関連の義務(ワクチン等)
多くの場合、絶対主義者同士の原則衝突と相対主義者による折衷提案が交錯している。
4. 道徳的分断を乗り越える3つのリーダー原則
① 分断を早期に見抜く
言葉遣いから推論スタイルを見極める。
- 絶対主義:交渉を持ちかけると反発が起きやすい
- 相対主義:トレードオフ提示が有効
②「誰が正しいか」から「どう決めるか」へ
価値観の優劣を争うのではなく、意思決定プロセスに焦点を移す。
- 譲れない原則(レッドライン)を明確化
- 交渉可能な領域を区別する
③ 両者を尊重する意思決定プロセスを設計する
- 絶対主義者:核心的原則が守られる保証
- 相対主義者:複数案とトレードオフの検討余地
手続き的公正が担保されれば、結果への納得度は高まる。
5. してはならないこと
- データや事実だけで説得しようとする
- 従業員を政治的にラベリングする
- 絶対主義者の価値観を認めないまま妥協を強いる
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“The Hidden Driver of Workforce Polarization,” HBR.org, November 19, 2025.