本稿は、世界的に拡大する富・所得格差と労働者の停滞感の根源を資本主義そのものではなく企業に蔓延する官僚的な組織構造に求めている。企業利益や生産性が伸び続ける一方で賃金は伸び悩み、その果実は富裕層や経営層に偏在している。CEO報酬の急膨張、生産性と賃金の乖離、世代間の機会格差はその象徴である。
著者らは、こうした不均衡の背景には、従業員の創造性・主体性・判断力を封じ込める官僚主義があると指摘する。官僚主義は「考える人は上、実行する人は下」という前提に立ち、現場の知恵や問題解決力を体系的に浪費してきた。その結果、世界の従業員のうち完全にエンゲージしている人はわずか23%に留まり、イノベーションや生産性の大きな阻害要因となっている。
重要なのは、「低スキルの仕事」という概念そのものが誤りだという主張である。仕事が低スキルかどうかは職種ではなく、学習・挑戦・改善の機会が与えられているかどうかで決まる。実際、OECDの調査でも、問題解決能力の発揮は職業差よりも組織の労働慣行に左右されることが示されている。
著者らは、官僚主義に代わるモデルとして、ポスト官僚主義(ヒューマノクラシー)を提唱する。そこでは、すべての従業員を「小さな起業家」と見なし、以下のような原則を実装することで、人の力を解き放つ。
- 経営者視点の思考を全員に教える
- 自己管理型の小規模チームに裁量とP/L責任を持たせる
- アップスキリングと現場実験を制度的に支援する
- 改善・挑戦に対して正当な経済的リターンを与える
- 役職ではなく、貢献と能力に基づいて影響力と報酬を決める
インガソール・ランド、ニューコア、ハイアールなどの先進事例は、徹底した権限委譲と信頼が、生産性・従業員満足・企業価値のすべてを高めることを示している。
著者らは結論として、問題は「人が動かないこと」ではなく、「人を縛る組織」にあると断言する。気候変動、社会分断、AI時代といった前例のない課題に直面する今、官僚主義のもとで人間の能力を浪費する余裕はない。人の創造性と判断力を最大限に引き出す組織を築けるかどうかが、企業の競争力だけでなく、社会の未来そのものを左右すると本稿は強く訴えている。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“The Social Case for Busting Bureaucracy,” HBR.org, September 22, 2025.