HBR Article:チームマネジメント「忙しい中でチームメンバーのキャリア開発をいかに支援すべきか」

 不確実性が高く、日常業務に追われる環境でも、部下のキャリア開発はリーダーの重要な職務である。従来の昇進中心のキャリア観は通用しにくくなり、将来の変化に対応できる学習力と応用可能なスキルが重要になっている。キャリア支援は、研修を追加するのではなく、日常業務の中に挑戦、実践、振り返りの機会を組み込むことで実現できる。
結論として、リーダーは部下の将来を決めるのではなく、一人ひとりが主体的に成長できる時間と機会を設計すべきである。

1.キャリアのはしごから学習へ転換する

昇進を重ねて上位の役職を目指す「キャリアのはしご」は、現在の不確実な環境には適合しにくい。キャリアには、昇進だけでなく次のような動きがある。

  • 異なる職種や部門への横移動
  • 新しい専門領域への転換
  • 組織再編やレイオフ
  • 予期しないプロジェクトへの参加
  • AIによる役割やスキルの変化

リーダーは、次の役職を約束するのではなく、変化に対応し、自ら機会を生み出せる学習力を育てる必要がある。

2.遠い将来より、今後2年程度を考える

10年後の職種や必要能力を正確に予測することは難しい。一方、近い将来に必要となる経験や中核スキルは、一定の確度で検討できる。キャリア対話では、次の点を確認する。

  • 今後1~2年で挑戦したい役割は何か
  • 現在の仕事で強化すべき能力は何か
  • 次の役割でも有効なスキルは何か
  • 成長が期待される業務領域はどこか
  • どのような経験を今から積むべきか

長期的な正解を示すのではなく、近い将来に向けた現実的な一歩を明確にすることが重要である。

3.狭い専門性ではなく、応用可能な能力を育てる

技術や市場の変化が激しい時代には、一つの専門領域に依存しすぎること自体がリスクになる。部下には複数のキャリアシナリオを考えさせ、幅広い場面で活用できる能力を育てるべきである。

  • 問題設定と課題解決
  • 顧客や事業への理解
  • データとAIの活用
  • コミュニケーション
  • 関係者との調整
  • 戦略的思考
  • 新しい分野を学ぶ能力

リーダーの役割は部下のキャリアを設計することではない。選択肢を広げ、本人が根拠を持って方向性を選べるよう支援することである。

4.一人ひとりに必要な学習を整理する

キャリア支援は、全員に同じ研修を提供することではない。本人の現在地と目標に応じて、学習内容を分けて考える必要がある。

現在の役割に必要な学習

目の前の業務を安定して遂行するための知識や能力である。

現在の成果を高める学習

より高いパフォーマンスや、役割の拡大につながる学習である。

将来の選択肢を広げる学習

現在の業務には直接必要でなくても、今後のキャリアに役立つ経験や知識である。たとえば、別職種への転換を希望する部下には、資格取得だけでなく、関連部門との協働や顧客理解、事業モデルの学習も必要となる。

5.学習を業務に上乗せせず、組み込む

多忙な従業員に研修や自己学習だけを追加しても、継続は難しい。まず不要な業務を減らし、学ぶための余地を確保する必要がある。そのうえで、日常業務を学習機会に変える。

  • 会議の進行を任せる
  • 顧客向けプレゼンを担当させる
  • 質疑応答をリードさせる
  • 他部門とのプロジェクトに参加させる
  • 上位者の会議へ同席させる
  • 新しいAIツールを業務で試させる
  • 終了後に振り返りを行う

単に仕事を任せるだけでは学習にならない。実践前の目標設定と、実践後のフィードバックを組み合わせることが重要である。

6.リーダー自身が学ぶ姿を示す

リーダーが学習の重要性を語りながら、自らは何も学んでいなければ、部下には本気度が伝わらない。次のような行動を共有するとよい。

  • 現在学んでいるテーマ
  • 読んでいる本や資料
  • 新しく試しているAIツール
  • 他者から得た気づき
  • 失敗した試行と学んだこと
  • 自身が今後伸ばしたい能力

成功事例だけでなく、うまくいかなかった経験も示すことで、学習には試行錯誤が伴うことを伝えられる。

7.キャリア対話が定着を高める

部下の将来について話すと、転職を促してしまうと考えるリーダーもいる。しかし、自分の成長に関心を持ち、支援してくれる組織に対して、従業員は強い信頼を抱きやすい。キャリア対話では、次の問いが有効である。

  • 今後どのような仕事に挑戦したいか
  • 現在の仕事で伸ばしたい能力は何か
  • どのような時に最も力を発揮できるか
  • 今後経験しておきたい業務は何か
  • 学習を妨げているものは何か
  • リーダーにどのような支援を求めるか

答えを与えるのではなく、本人が方向性を考えられる問いを投げかけることが重要である。

8.リーダーが実践すべき原則

実践すべきこと

  • 近い将来を軸にキャリアについて話す
  • 昇進よりも学習と成長を重視する
  • 一人ひとりに必要なスキルを整理する
  • 日常業務の中に挑戦の機会を設ける
  • 学習に必要な時間を確保する
  • 実践後にフィードバックを行う
  • 自らの学びも率直に共有する

避けるべきこと

  • キャリア開発を昇進の話だけに限定する
  • 将来を正確に予測できるように振る舞う
  • 狭い専門分野だけを学ばせる
  • 業務を減らさず、学習だけを追加する
  • 理想的な研修機会が来るまで何もしない
  • 部下の将来をリーダーが一方的に決める

キャリア支援に必要なのは、大規模な研修制度や長期的なキャリア計画ではない。日々の仕事の中に小さな挑戦と学習を組み込み、部下が変化に対応できる力を継続的に育てることである。

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