HBR Article:リーダーシップ「マネジャーからリーダーへと昇進する際の新たなロードマップ」

 部門リーダーから事業リーダーへの移行は、AIの台頭、地政学リスク、中間管理職の削減によって、従来以上に難しくなっている。求められるのは、単なる部門横断の知識ではなく、人間とAIによる意思決定システムを設計し、不確実な環境下で会社全体を最適化する能力である。
従来の「7つの変化」は今も有効だが、その中身は大きく進化しており、企業は育成・評価・サクセッションの仕組みを見直す必要がある。

1. 事業リーダーへの移行を難しくする3つの潮流

生成AIとアルゴリズムによる意思決定

AIは分析やシナリオ策定を高速化し、リーダーの役割を変えている。

  • 自ら分析することより、AIの提案を評価・選択する力が重要になる
  • AIに任せる判断と、人間が担う判断を切り分ける必要がある
  • AIを活用しながら、最終的な責任を負うガバナンス能力が求められる

地政学リスクの拡大

関税、規制、制裁、データ主権、サプライチェーンなどが経営判断そのものになっている。

  • 調達戦略は地政学リスクと不可分である
  • データやITアーキテクチャも各国規制の影響を受ける
  • 外部環境への対応は専門部門任せではなく、経営課題として扱う必要がある

リーダーシップパイプラインの縮小

組織のフラット化により、段階的に経営経験を積む機会が減っている。

  • 部門責任者から事業責任者への昇格が急激になっている
  • 全社視点や経営判断を学ぶ助走期間が短くなっている
  • 就任前から、より完成度の高い経営能力が求められる

2. スペシャリストからゼネラリストへ

従来のゼネラリストは、財務、営業、マーケティング、オペレーションなどを幅広く理解する存在だった。

現在はさらに、

  • AIが各部門をどう変えるか
  • 自動化が収益構造にどう影響するか
  • LLMが知識労働をどう変えるか

まで理解する必要がある。

つまり、ビジネスとテクノロジー、その相互作用を理解することが新たなゼネラリストの条件である。

3. 分析者から統合者へ

最大の変化は、統合の意味が変わったことである。

従来は、各部門から情報や分析を集めて統合することが役割だった。現在はAIが膨大な分析を生成するため、リーダーに求められるのは、

  • AIと人間の役割分担を決める
  • 意思決定プロセスを設計する
  • 誰がどの判断に責任を持つかを明確にする

ことである。

統合者とは、情報をまとめる人ではなく、人間とAIによる意思決定システムを設計する人へと変わっている。

4. 戦術家から戦略家へ

戦略も、年次計画から継続的な適応へと変化している。

  • 小さな変化の兆候を早期に察知する
  • 複数の戦略オプションを持つ
  • 小規模な実験で仮説を検証する
  • 成果に応じて投資を拡大・縮小する

重要なのは、一度正しい戦略を決めることではなく、環境変化に応じて戦略を継続的に修正する能力である。

5. レンガ職人から建築家へ

事業リーダーは、個別施策を積み上げるのではなく、組織全体の仕組みを設計する必要がある。

同時に実現すべき課題は多い。

  • 効率性とイノベーション
  • 自律性と統制
  • スピードとガバナンス
  • 製品開発と共通プラットフォーム

組織構造、テクノロジー、意思決定権、予算配分、業務プロセスを別々に扱わず、一体的なオペレーティングモデルとして設計することが求められる。

6. 問題解決者から課題設定者へ

AIによって情報量が爆発的に増えるほど、何を考えないかを決める能力が重要になる。

事業リーダーには、

  • ノイズと重要なシグナルを見極める
  • 不確実な段階でも優先順位を決める
  • 重点課題を少数に絞る
  • 経営資源とKPIを優先課題に連動させる

ことが求められる。

課題を解くこと以上に、組織が取り組むべき課題そのものを定義する能力が重要になる。

7. 兵士から外交官へ

現在の事業リーダーは、社内調整だけでなく、複雑な外部ステークホルダーとの関係を管理する必要がある。

対象は、

  • 政府・規制当局
  • 海外拠点
  • パートナー企業
  • 地域社会
  • 投資家
  • その他の外部ステークホルダー

へと広がっている。

地政学や規制環境が不安定になるほど、組織外との関係を調整し、社会的な事業基盤を維持する外交力が重要になる。

8. 部門リーダーから事業リーダーへ

最終的な変化の本質は、目立つ存在になることではない。

必要なのは、自部門の最適化から会社全体の最適化へ思考を転換することである。

そのためには、

  • 出身部門に不利益となる判断も行う
  • 人材を部門所有ではなく全社資産として扱う
  • 限られた経営資源を全社視点で再配分する
  • 不確実な状況で組織の方向性を示す

ことが必要になる。

9. リーダー育成とサクセッションを見直す

企業側も、従来型のリーダー育成では対応できない。

育成

候補者には、実践的な経験を意図的に与える必要がある。

  • AIを活用した意思決定の統括
  • 地政学・規制が複雑な市場での経験
  • 部門横断的なストレッチアサインメント
  • 経営判断を疑似体験するシナリオ演習
  • 現役経営者によるメンタリング

評価

従来の、

  • 部門業績
  • 戦略的思考
  • エグゼクティブプレゼンス

だけでは不十分である。

今後は、

  • AIを統治する能力
  • 地政学を読み解く能力
  • 全社最適で判断する能力
  • 7つの変化に対する成熟度

まで評価する必要がある。

結論

事業リーダーに求められる本質は変わっていないが、その実践方法は大きく変化している。
今後のリーダーに必要なのは、単に幅広い知識を持つことではなく、AI、人材、組織、テクノロジー、地政学を統合し、不確実な状況下で会社全体の意思決定システムを設計・運営する能力である。企業も個人も、従来の成功体験を前提とした育成から脱却し、これから直面する環境に適合したリーダーシップ能力へ進化する必要がある。

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