本稿は、職場における感情の重要性とそれをリーダーがどのように理解・活用すべきかを論じている。感情はチームの結束力や業績に直結するにもかかわらず、依然として軽視されがちである。感情を抑圧することは、燃え尽き症候群、士気低下、チームの崩壊を招く。AIが分析的タスクを担う現代では、「感情的知性(EI)」こそがリーダーの不可欠なスキルであり、組織を導く鍵となる。
優れたリーダーは、感情を隠さず・見落とさず・恐れない。感情に気づき(Notice)、名前をつけ(Name)、意味を理解し(Need)、日常化する(Normalize)ことで、健康でレジリエントなチームを築ける。AIが分析を担う時代において、感情を理解し扱える力こそ人間らしいリーダーシップの最大の強みである。
感情を扱うための4つの視点
① 気づく(Notice)
感情を活用する第一歩は「気づく」こと。
- 感情はしばしば身体や行動、エネルギー変化として表れる。
- 自分の身体的反応(歯を食いしばる、肩の緊張など)や行動パターンの変化に注意を向ける。
- 同僚の声のトーン、姿勢、表情なども感情のシグナルとして観察する。
リーダーはこうしたサインを敏感に察知することで、チームの心理的状態を把握できる。
② 名前をつける(Name)
感情を正確に言語化することで、自己理解と対応力が高まる。
- 「怒り」「悲しみ」などの大まかな言葉ではなく、「憤慨」「挑発された」「安堵」といった精密な語彙を使う。
- 感情語彙を増やすことで意思決定が改善し、ストレス管理能力も向上する。
- 相手にも「具体的にどう感じているのか」を尋ねることで、より深い対話と共感が生まれる。
③ 必要とする(Need)
感情を「弱さ」ではなく「データ」として扱う視点。
- 感情は、自分のニーズ・価値観・境界を知らせる重要なメッセージ。
- 感情を有益なものと捉える人ほど、ウェルビーイングと他者理解が高まる。
- 部下や同僚の変化を察知した際は、判断せず穏やかに問いかけることが信頼と心理的安全性を育む。
感情を探ることは、成果と人間関係の両方を高める鍵である。
④ 普通のことにする(Normalize)
感情表現を日常的で健全なものとする。
- リーダーが率直に感情を共有することで、チームに安心感と信頼をもたらす。
- ただし過剰な自己開示は逆効果。目指すのは「人間らしさを示す」バランス。
- 「今は大変だが、皆で乗り越えよう」といった発言は、共感と連帯を生む。
- 定期的にチームの感情状態を尋ね、オープンな文化を育てる。
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“The Best Leaders Normalize Emotion at Work,” HBR.org, August 21, 2025.