多くの企業は顧客分析を高度化する一方、従業員理解を直感や表面的な調査に頼っている。
北米小売企業の調査では、仕事を楽しむ従業員ほど、売上高、定着率、顧客満足度が高いことが明らかになった。特に重要なのは、給与や勤務条件だけでなく、承認、成長、仕事の意義といった感情的なニーズである。
結論として、企業は従業員を一括りにせず、データに基づいて分類し、各層に適した仕事と職場体験を設計すべきである。
1.従業員理解は顧客理解より遅れている
企業は顧客に対して、行動分析、セグメンテーション、予測分析を活用している。一方、従業員に対しては、定期アンケートや経営層の直感に依存している場合が多い。本調査では、北米のアパレル小売企業を対象に、従業員の90%以上から次のデータを収集した。
- 仕事に対する動機
- 業務ごとの楽しさ
- 満足度と離職意向
- 成長や評価に対する認識
- 日常業務の時間配分
これらを、売上高、顧客満足度、定着率などの実績データと結びつけて分析した。
2.仕事の喜びが業績を高める
調査では、仕事を楽しんでいる従業員ほど高い成果を上げていた。
- 1時間当たり売上高が平均25%高い
- モチベーションが高い
- 離職を考える可能性が低い
- 所属店舗のNPSや顧客満足度が高い
- 長期的にも高い生産性を維持している
喜びは、単なる従業員満足の指標ではなく、売上高や顧客体験を左右する経営指標である。
3.給与以上に感情的なニーズが重要である
従業員に直接尋ねると、給与、福利厚生、勤務時間などが重視される。しかし、定着率やパフォーマンスとの関係を分析すると、より影響が大きかったのは次の要素である。
- 自分の価値を認められている感覚
- 上司や組織から支えられている感覚
- 学習と成長の機会
- 明確なキャリアパス
- 仕事の意義や目的
- 組織や仲間とのつながり
処遇は重要だが、それだけでは高い意欲や成果を持続させることはできない。
4.従業員を一括りに扱わない
調査では、従業員を動機や働き方に応じて8つの層に分類した。
喜びと業績が高い層
- 志の高い見習い:成長とキャリア形成を重視する若手
- 堅実な努力家:長期勤続を考え、成長と生活の両立を求める中堅
- 忠実な両立者:育児や介護と仕事を両立し、柔軟性と意義を重視する人材
- 野心的なベテラン:管理職を目指し、難しい課題に挑む人材
- 熟練のパイプ役:顧客との交流とブランドへの愛着を重視するベテラン
喜びと業績が低い層
- スタイル先行型:ブランドやファッションに惹かれた若手
- 無関心な腰掛け組:柔軟な勤務条件を主目的とする従業員
- 伸び悩む稼ぎ手:収入を主な動機とし、成長や評価を感じられない従業員
低業績層では、過小評価されている感覚、育成不足、組織とのつながりの弱さが共通していた。
5.高業績者の特徴を思い込みで判断しない
最も高い売上を上げていたのは、主にキャリア後半のパートタイム従業員であった。彼らが重視していたのは、昇進や給与だけではない。
- 顧客とのつながり
- ブランドへの愛着
- 仲間とのコミュニティ
- 経験や能力への敬意
- 意義ある仕事
企業が一般的な人材像だけを前提に採用や配置を行うと、こうした高業績人材を見落とす可能性がある。
6.喜びを生む仕事に時間を振り向ける
従業員は、次の業務に喜びと活力を感じていた。
- 顧客との対話
- 接客や販売
- 研修
- スキル開発
- 同僚との協働
一方で、実際には事務作業、バックオフィス業務、反復的なプロセスに多くの時間を奪われていた。一部店舗では、接客時間が勤務時間の40%未満であった。
企業は次の対応を進める必要がある。
- 不要な事務作業を削減する
- 業務を標準化・自動化する
- 顧客対応に集中できる時間を増やす
- 学習や能力開発を日常業務に組み込む
- 従業員が価値を感じる仕事を再設計する
7.従業員と施策を共創する
経営層だけで施策を設計するのではなく、調査結果を従業員に共有し、改善策をともに考えることが重要である。従業員からは、次の提案が出された。
- 担当業務と責任の明確化
- チーム成果を促す評価制度への変更
- マネジャーが感謝を示すための少額予算
- 成果や節目を祝う仕組み
- 繁忙期の軽食や飲料の提供
- キャリアパスの可視化
- セグメント別の研修と育成
共創によって、施策の実効性が高まるだけでなく、従業員自身が尊重されていると感じられる。
8.従業員の喜びを経済価値として捉える
調査では、喜びの高い従業員が1ポイント増えると、年間総売上高の約0.25%に相当する売上増につながると推計された。さらに、次の施策を組み合わせることで、年間売上高を5~15%高められる可能性が示された。
- 喜びの高い従業員の定着
- 喜びの低い従業員の体験改善
- 適性の高い人材の採用
- セグメント別の育成
- 業務プロセスの再設計
従業員体験は、人事部門だけのテーマではない。売上、顧客体験、採用、配置、業務改革に関わる全社的な経営課題である。
9.企業が取るべき行動
企業は、従業員を顧客と同じ精度で理解し、次の行動につなげる必要がある。
- 従業員の喜びと業績の関係を測定する
- 表面的な回答ではなく、実際の行動との相関を分析する
- 従業員を動機やニーズ別に分類する
- 各層に合わせて採用、配置、育成を変える
- 感情的なニーズを職場設計に反映する
- 従業員と改善策を共創する
- 喜びを売上や顧客満足度と結びつけて管理する
従業員の喜びは、福利厚生的な付加価値ではない。企業の生産性、顧客体験、定着率、売上高を高める重要な経営資源である。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“Leaders Underestimate the Value of Employee Joy,” HBR.org, March 24, 2026.