HBR Article:リーダーシップ「優れたリーダーは「脇役」に徹している」

 自分を組織の主役と見なすリーダーシップは、視野を狭め、部下の信頼や主体性、リーダー自身の幸福を損なう。これに対し、自分を他者の成長を支える脇役と位置づける姿勢は、謙虚さ、学習、成果を促進する。その実践には、他者への積極的な好奇心と、仕事を本人の強みや価値観に結びつけるジョブクラフティングが必要である。
結論として、AI時代のリーダーの価値は、知識を与えることではなく、人とつながり、その可能性を引き出すことにある。

1.主役型リーダーシップの弊害

「メインキャラクターエナジー」とは、自分の視点やビジョンを組織の中心に置き、周囲をその実現手段として捉える姿勢である。この姿勢が強まると、次の問題が生じる。

  • 自分の見方を唯一の正解と考える
  • 他者の意見や経験を軽視する
  • 現場に自らのビジョンを一方的に押しつける
  • 異論を抵抗や能力不足と見なす
  • 部下の信頼と主体性を損なう

リーダーが現場に深く関与すること自体が問題なのではない。自分の考えだけが正しいと信じ、組織全体に強制することが問題である。

2.権力が認知の偏りを強める

人は、自分の世界観を客観的な現実だと思い込みやすい。この傾向は「素朴実在論」と呼ばれる。権力を持つリーダーほど、次の状態に陥りやすい。

  • 自分の判断への過信
  • 他者の視点への関心低下
  • バイアスや盲点の見落とし
  • 異論への否定的反応
  • 対立の激化

主役意識は、この認知の偏りを抑えるのではなく、さらに強める。好奇心や謙虚さを欠くリーダーの下では、従業員の信頼が低下し、チームの業績も悪化する。

3.自己中心性はリーダー自身も疲弊させる

自分を中心に置く姿勢は、周囲だけでなく、リーダー本人のウェルビーイングも損なう。常に自分の評価、影響力、ブランド、成果を意識すると、慢性的な自己監視が生じる。その結果、次のような状態を招きやすい。

  • 孤独感の増大
  • 抑鬱傾向の高まり
  • 周囲との心理的な距離
  • 仕事へのエンゲージメント低下
  • 成果を出し続けなければならないという重圧

人は自分への関心を高めるほど充実するわけではない。他者に貢献し、自分の役割が誰かの成長に役立っていると感じる時に、より大きな充実を得る。

4.脇役型リーダーシップへ転換する

「サポーティングキャラクターエナジー」とは、自分を他者の物語の中心ではなく、成長を支える存在として位置づける姿勢である。このリーダーシップでは、次の問いを重視する。

  • 相手には世界がどのように見えているか
  • 自分の行動は相手にどう受け止められているか
  • 相手が力を発揮するために何が必要か
  • 自分は相手の成長をどう支援できるか
  • 自分が前面に出ることは本当に必要か

脇役になることは、消極的になることではない。他者が活躍できる環境を意図的に設計することである。

5.他者への好奇心を持つ

他者を支援するためには、相手の考え、感情、経験を理解する必要がある。その出発点となるのが、知的な謙虚さである。知的に謙虚なリーダーは、次の姿勢を持つ。

  • 自分の理解が不完全であると認める
  • 異なる視点を積極的に求める
  • 相手の話を結論づけずに聞く
  • 自分の行動が与えた影響を確認する
  • 間違いや認識不足を修正する

謙虚さは、チームにも伝播する。互いに質問し、学び合う文化が生まれ、アイデアの質と成果が高まる。

6.対話の前に「好奇心チェック」を行う

重要な会話の前には、自分の前提を点検する必要がある。リーダーは、次の問いを自分に投げかける。

  • 相手について、まだ知らないことは何か
  • 相手は現在、何に悩んでいるのか
  • 自分の言動が意図せず相手を萎縮させていないか
  • 自分はすでに答えを決めていないか
  • 相手の意見によって考えを変える余地があるか

この確認を行うことで、自分の視点を押しつけるのではなく、相手を理解するための問いを発しやすくなる。

7.ジョブクラフティングを支援する

ジョブクラフティングとは、従業員が自分の仕事を、強み、関心、価値観と結びつけて捉え直すことである。同じ職務でも、どのような意味を見いだすかによって、意欲と成果は変わる。たとえば、病院の清掃スタッフが自分の仕事を単なる清掃ではなく、患者を支えるケアの一部と捉えれば、仕事の意味と行動範囲が広がる。

ジョブクラフティングには、次のような効果がある。

  • 仕事の意味を感じやすくなる
  • 自分の強みを活かせる
  • 心理的な充足感が高まる
  • 主体的な行動が増える
  • 生産性と定着率が向上する

8.部下の「最高の自分」を仕事につなげる

リーダーは、会社の価値観を一方的に教えるだけでなく、部下自身が大切にするものを理解すべきである。具体的には、次の問いが有効である。

  • あなたが最も自分らしく働けた経験は何か
  • 自分のどの強みを仕事で活かしたいか
  • どのような業務に最も意味を感じるか
  • 仕事を通じて誰に貢献したいか
  • 今の役割をどのように変えれば、より力を発揮できるか

インドのコールセンターでは、新入社員に会社への適応を求めるのではなく、自分の強みと「最高の自分」について考えさせた。その結果、仕事の満足度、成果、定着意向が高まった。企業への忠誠心を高めるには、企業の価値を説くことよりも、従業員本人の価値を認めることが有効である。

9.支援型リーダーが実践すべき行動

サポーティングキャラクターエナジーを発揮するには、次の行動が必要である。

  • 会話では自分より相手に多く話してもらう
  • 結論を示す前に、相手の見方を尋ねる
  • 相手の強みと価値観を把握する
  • 本人の成長に合う役割や機会を提供する
  • 成果だけでなく、成長や挑戦を評価する
  • 自分が称賛されるより、部下が評価される機会を増やす
  • 指示ではなく、問いかけとコーチングを用いる
  • 部下の仕事に意味を見いだす支援を行う

リーダーの目的は、自分の存在感を高めることではない。周囲の能力と影響力を高めることである。

10.AI時代に求められる役割

AIの普及は、主役型リーダーシップの問題をさらに深刻にする可能性がある。AIは利用者の意見に同調し、既存の信念を補強する場合がある。その結果、次のリスクが生じる。

  • 自分の考えへの過信
  • 相手への共感の低下
  • 謝罪や自己修正の減少
  • 異なる視点を検討しない傾向
  • 素朴実在論の強化

リーダーは、AIから得た回答を自身の正しさの証明に使うのではなく、異なる視点を探索するために使う必要がある。

11.リーダーの価値は知識から人間理解へ移る

これまでリーダーは、部下より多くの知識や経験を持つことで価値を発揮してきた。しかし、AIは膨大な知識を提供できる。今後、人間のリーダーの代替不可能な価値は、知識量そのものではなくなる。重要性が高まるのは、次の能力である。

  • 相手の感情や価値観を理解する
  • 人と深くつながる
  • 意味と目的を示す
  • 強みを見いだし、活躍の機会をつくる
  • 不安を和らげ、挑戦を促す
  • 個人と組織の目的を結びつける

AI時代の優れたリーダーとは、最も多くを知る人ではない。他者を最も深く理解し、その人が主役として活躍できる環境をつくる人である。

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