HBR Article:組織文化/組織開発「従業員のひそかなAI利用を生産性向上につなげる方法」

 従業員による生成AIの無許可利用は、情報漏洩などのリスクである一方、現場に強い活用需要がある証拠でもある。
BBVAは、安全な利用環境を迅速に整備し、利用意欲の高い従業員と社内専門家のネットワークを通じてAI活用を拡大した。その結果、現場主導で多数のAIツールが生まれ、大幅な業務時間の削減につながった。
結論として、AI導入の成功には、中央部門による一元管理ではなく、適切なガードレールの下で現場の創意工夫を引き出す仕組みが必要である。

1.シャドーAIは需要の表れである

多くの企業では、正式なAI導入が進まない一方、従業員が個人向けAIを業務で利用している。

  • 正式な法人契約がない企業でもAI利用は広がっている
  • 従業員は使いにくい社内ツールを避け、個人端末や外部サービスを使う
  • 機密情報の漏洩や不適切な処理につながるおそれがある
  • 利用禁止だけでは、既に存在する需要を地下に追いやる

シャドーAIを単なる違反行為と捉えるのではなく、どの業務に改善余地があるかを示すシグナルとして活用すべきである。

2.BBVAは安全な環境を迅速に整備した

BBVAは2024年、チャットGPTエンタープライズを自社専用の安全な環境に導入した。同社が重視したのは、完全な制度設計を待つことではなく、既存の無許可利用より安全な選択肢を早期に提供することである。

  • リスク評価、法務審査、GDPR対応を約2カ月で実施した
  • 専任のシニアマネジャーに権限と時間を与えた
  • 経営トップが導入を強力に支援した
  • AIを人間の代替ではなく、業務を支援するアシスタントと位置づけた

厳しい規制業種でも、経営の優先順位を明確にすれば迅速な導入は可能である。

3.利用を強制せず、魅力的な機会にした

BBVAは当初、ライセンスを3000人に限定し、意欲と貢献度の高い従業員へ配布した。

  • 役職ではなく、利用意欲を基準に選定した
  • 利用しない場合は、別の希望者へライセンスを移した
  • カスタムGPTを作成・共有した従業員を評価した
  • AIへのアクセスを義務ではなく、特権として設計した

この仕組みにより、ライセンスへの需要と積極的な利用が高まった。

4.社内の専門家ネットワークを構築した

AI活用の普及を中央部門だけで担わず、現場に分散させたことがBBVAの特徴である。

チャンピオン

地域や事業部門の責任者として、導入戦略やライセンス配分を担った。

ウィザード

AIへの熱意とスキルを持つパワーユーザーとして、次の役割を担った。

  • 同僚への利用支援
  • 有効なユースケースの発見
  • カスタムGPTの作成
  • 成功事例やノウハウの共有

実践コミュニティ

部門や地域を越えて質問、解決策、活用事例を共有する場として機能した。このネットワークによって、個人の工夫が組織全体の知識へと転換された。

5.経営幹部自身にAIを体験させた

AI導入は、管理職の懐疑心やリスク回避姿勢によって停滞しやすい。BBVAはCEOを含む最高経営幹部約250人に、参加必須の実践型ワークショップを実施した。扱ったのは抽象的な技術解説ではなく、実際の経営業務である。

  • 投資家向けイベントの準備
  • 部下へのフィードバック
  • 慎重な表現を要する文書作成
  • 情報整理や意思決定支援

経営幹部自身が有用性を体験したことで、AIは未知の脅威から、実務を支援する道具へと認識が変化した。

6.人間の責任を残したガバナンスを採用した

BBVAは、現場に裁量を与えながら、責任の所在を明確にした。

  • AIの出力は必ず人間が確認する
  • 最終的な成果への責任は従業員が負う
  • AIから基幹システムへの直接書き込みを認めない
  • 利用者には研修、試験、責任確認を求める
  • カスタムGPTには品質評価とガードレールを設ける
  • 各ツールに利用範囲、データ境界、管理責任者を設定する

すべてを中央で事前承認するのではなく、共通ルールと自動評価によって、統制と拡張性を両立した。

7.現場主導で大きな成果を生み出した

BBVAでは、アクティブユーザーが1年未満で3000人から1万1000人へ増加した。

  • 利用者の83%以上が毎週AIを利用した
  • 週平均約50件のプロンプトが入力された
  • 利用者は週平均2~5時間を削減した
  • 4800件を超えるカスタムGPTが作成された

部門別でも大きな効果が確認された。

  • 内部監査では、監査人の99%が利用し、週3~4時間を削減した
  • メキシコの保険助言GPTは、問い合わせ対応時間を92%短縮した
  • ペルーの業務支援GPTは、サポート時間を74%短縮した
  • 採用レポートの作成時間は、36分から11分へ短縮した
  • 社内会計の問い合わせ対応時間は85%短縮した

これらのツールは、中央のIT部門ではなく、業務を熟知する現場従業員が開発した。

8.企業が実行すべき5つの施策

① 安全な環境を早期に提供する

無許可利用を禁止するだけでなく、全社で利用できる安全なAI環境を迅速に整備する。

② AIへのアクセスを魅力的にする

意欲や貢献度を基準にライセンスを配布し、積極的な活用を促す。

③ 各部門にパワーユーザーを置く

現場で相談、教育、ユースケース開発を担う専門家を育成する。

④ 管理職自身に利用させる

理論研修ではなく、実際の管理業務を通じてAIの価値と限界を理解させる。

⑤ 人間中心のガバナンスを徹底する

AIは意思決定者ではなくアシスタントと位置づけ、人間による検証と説明責任を残す。

9.中央管理から現場支援へ転換する

生成AIは自然言語で扱えるため、専門的な開発者でなくても業務改善ツールを構築できる。これは、すべての従業員が技術的なイノベーターになり得ることを意味する。企業が優先すべきことは、完璧な全社計画を中央で設計することではない。

  • 現場のAI需要を把握する
  • 安全な環境と共通ルールを提供する
  • 優れた活用者を発見し、支援する
  • 成功事例を組織全体へ広げる
  • 現場の実験から全社戦略を形成する

シャドーAIをなくす最善の方法は、従業員を監視することではない。安全で使いやすい環境を提供し、隠れていた創意工夫を組織の競争力へ変えることである。

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