HBR Article:人材採用・育成「スター社員の模倣を促す人事評価をやめよう」

 人材の多様性だけでは、組織のイノベーションは生まれない。固定されたトップ人材を全員が模倣すると、知識や行動が一つの型に収束し、多様性の価値が失われるためである。
重要なのは、成果を上げる人材を継続的に更新し、新たな実力者の独自の知識を組織全体へ循環させることである。
トップとの差が大きい人は素早く学び、差が縮まれば独自性を維持する「実力差を意識した学習」が、複雑な課題で高い成果を生む。
組織学習とイノベーションの鍵は、人材の多様性そのものではなく、多様な知識が再結合される仕組みを設計することにある。


1. マイクロソフトのスタック・ランキングが招いた問題

マイクロソフトでは、年1回の評価でトップパフォーマーを特定し、他の社員がその行動を模倣する「スタック・ランキング」を採用していた。その結果、次の2つの問題が生じた。

  • オーバーシューティング
    トップ人材を過度に模倣し、自分独自の優れたやり方まで失ってしまう。
  • 模倣対象の固定化
    評価が更新されないため、新たに成果を上げた人材や新しい成功パターンが組織に共有されない。

多様な人材を採用していても、全員が同じ人物を模倣すれば、組織の行動は均質化する。


2. 組織学習の本質は「知識の再結合」である

イノベーションは、異なる人が持つ部分的に優れた知識や実践を組み合わせることで生まれる。従来は「ゆっくり学習するほど多様性が維持される」と考えられてきた。しかし本研究では、重要なのは学習速度そのものではなく、誰を模倣すべきかという情報の鮮度であることが示された。

評価情報が古いままでは、組織は過去の成功パターンを学び続けることになる。


3. 模倣対象をリアルタイムで更新する

有効なのは、固定されたスター社員ではなく、現在成果を上げている人材を継続的に可視化する仕組みである。

リアルタイムで評価を更新すると、

  • トップレベルに追いついた人は過度な模倣をやめられる
  • 新たな方法で成果を上げた人材がすぐに発見される
  • 複数の成功パターンが組織内に広がる
  • 異なる知識が再結合され、新たな解決策が生まれる

筆者らはこれを「模倣対象の多様性」と呼ぶ。


4. 「実力差を意識する」学習ルール

全員が同じ速度で学ぶのではなく、トップレベルとの距離によって学習方法を変えるべきである。

  • 実力差が大きい人
    トップパフォーマーを積極的に模倣し、短期間で能力を高める。
  • 実力差が小さい人
    模倣を減らし、自分独自の強みや方法を維持・発展させる。

これによって、新たな実力者が次々と生まれ、組織内に複数の成功パターンが形成される。特に、正解が一つではない複雑な課題ほど、この方法の効果は大きい。


5. 人材の多様性だけでは不十分である

多様な人材を採用しても、その知識が組織内に広がらなければ価値は生まれない。

重要なのは、

人材の多様性
→ 模倣対象の多様性
→ 知識の再結合
→ イノベーション

という流れをつくることである。従来の人材育成のように、新入社員を既存のベストプラクティスへ同化させるだけでは、採用時に期待した独自性を失わせる可能性がある。


6. 新たな実力者こそ価値ある学習対象である

既存のスター社員のノウハウは、すでに組織内へ広く浸透していることが多い。

一方、新たにトップレベルへ到達した人材は、

  • 従来とは異なる方法を持つ
  • まだ組織内で広まっていない知識を持つ
  • 新しい成功経路を提示できる

という特徴を持つ。したがって、過去の実績が豊富なスターだけではなく、「新しく成果を出し始めた人」を早期に発見することが重要である。


7. マイクロソフトの改革が示すもの

サティア・ナデラCEOはスタック・ランキングを廃止し、継続的なフィードバック制度を導入した。さらにハッカソンなどを通じ、肩書きや過去の評価にかかわらず、新しい成果を上げた人がすぐに可視化される環境を整えた。

これは、

「何でも知っている組織」から「何でも学ぶ組織」への転換

であり、固定されたロールモデルから、常に変化するロールモデルへの転換でもあった。


8. AI時代ほど「収束しすぎない設計」が重要になる

AIは組織学習を加速できる一方、全員に同じベストプラクティスを提示すれば、組織を急速に均質化させる危険がある。

AIには、

  • 個人とトップレベルとの実力差を把握する
  • 実力差が大きい人には優れた実践を提示する
  • トップ層には独自の探索を促す
  • 新たな実力者を早期に発見する

といった役割を持たせるべきである。

AIによってベストプラクティスを固定するのではなく、優れた実践そのものを継続的に更新することが重要である。


結論

組織の競争力を高めるのは、単に多様な人材を集めることではない。異なる成功パターンを持つ人材を継続的に発見し、その知識を組織内で再結合できる学習システムを構築することである。

固定されたスターや過去のベストプラクティスへの依存をやめ、成果を上げる人材と学習対象を常に更新する。それによって初めて、人材の多様性が組織のイノベーションへと転換される。

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