長年「日本にはリーダーがいない」と批判されてきたが、それは欧米型のカリスマ的・トップダウン型リーダー像を基準にした見方にすぎない。日本では伝統的に「協調的・長期志向・現場重視」のリーダーシップが発揮されてきた。しかしバブル崩壊後の停滞期には、内部昇進型・合意形成重視の構造が過剰に強まり、意思決定の曖昧化・改革の遅延・リーダー不在感を生んだ。
近年の調査(日本企業102社のトップへのインタビュー)では、この従来モデルと一線を画す新しいリーダーが台頭していることが明らかになった。筆者らはこれを「RJ型(Resolute Japan型)」リーダーと呼ぶ。
「リーダー不在」という言説は、欧米型の基準に基づく誤解であり、日本からはすでに「RJ型リーダー」が現れつつある。彼らは毅然とした決断力と人間中心の姿勢を兼ね備え、組織と社会の持続的な変革を牽引している。これは海外からも注目される新しいリーダーシップモデルとなりうる。
従来の日本型リーダーの特徴
- 協調・調和重視:合意形成を基盤とし、目立たず背中で語るスタイル。
- 内部昇進慣行:組織忠誠や一体感を重視するが、外部視点の欠如につながる。
- 長期連帯主義:社内で育成・承認された人材が経営を担うため、変化への即応力に欠ける。
この構造は安定をもたらした一方で、グローバル化やデジタル化といった急激な環境変化に対応しにくい弱点を生んだ。
RJ型リーダーの特徴
- 毅然とした戦略的決断力:短期的な痛みを伴っても、長期的成長に資する改革を推進。
- 持続的実行力:派手な演説やカリスマ性ではなく、現場と連携しながら改革を継続。
- マルチステークホルダー重視:株主だけでなく顧客・従業員・社会を含む多様な利害関係者との信頼関係を重視。
- 人間中心のリーダーシップ:社員との直接対話や共感を通じて信頼を築き、組織のエンゲージメントを高める。
事例
- 日立製作所:赤字からの再建で、複数代にわたり一貫した長期戦略を実行。
- 中外製薬:ロシュとの提携を通じて研究集中戦略を遂行。
- カインズ:短期的利益より人材育成を優先し、業界1位に成長。
- ソニー:平井一夫氏が社員との直接対話で信頼を再構築。
- ローソン:現場重視の企業風土を再構築。
- ユーグレナ:18歳以下のCFO導入で未来世代の視点を経営に反映。
- 横河電機:若手主導の未来共創イニシアティブで社外連携を推進。
詳細は下記参照。
Pudelko, M. (2006). A comparison of HRM systems in the USA, Japan and Germany in their socio‐economic context. Human resource management journal, 16(2), 123-153.
Ezra F. Vogel (1979). Japan as Number One: Lessons for America. Harvard University Press.
加護野忠男. (2014). 企業統治の再構築と労働組合の役割. DIO, 12.