HBR Article:人材採用・育成「エントリーレベルの仕事をAIに代替させることの危険性」

 AIの進展に伴い、多くの企業でエントリーレベル職種が削減されつつある。しかし、こうした動きは短期的なコスト削減には寄与する一方で、長期的には組織の健全性・イノベーション力・社会全体の安定を損なう「近視眼的な判断」である。本論文は、エントリーレベル職種が果たす本質的な役割を整理し、AI時代に求められる再設計の方向性を提示している。

AIが定型業務を担うようになったからこそ、エントリーレベル職種は単なる作業担当ではなく「学習と成長の起点としての役割」へと進化すべきである。企業が今行うべきは削減ではなく再設計であり、それは組織の競争力・文化・社会の健全性を守るための重要な投資である。

1. なぜエントリーレベル職種を残すべきか(4つの理由)

① 将来のリーダー・専門職を育てる基盤

  • 有能なリーダーは例外なく基礎業務から成長している。
  • 初歩的な業務を経験することで視点・判断力・現場感覚が身につく。
  • エントリーレベルの撤廃は、成長の階段を壊すに等しい。

② 現場に根差したイノベーションの源泉

  • 若手は既成概念に縛られず改善点を見抜く力がある。
  • AIは一貫性は高いが変動性がなく、突破的な発想を生みにくい。
  • 草の根の気づきがなければ競争優位は築けない。

③ 多世代が混じり合う健全な組織文化の維持

  • 若手がいない組織は活気を失い、視点が均質化し、文化が停滞する。
  • 年齢の多様性は創造性と刷新サイクルの維持に不可欠。

④ 社会の安定のため

  • エントリーレベル職は若者の目的意識・帰属意識を形成する役割を持つ。
  • 大量の若者が仕事を持てない社会は不安・疎外・犯罪リスクに直面する。
  • 若者の就労機会を確保することは企業の社会的責任でもある。

2. AI時代のエントリーレベル職種をどう再設計するか(4つのステップ)

① タスクの設計を見直す

  • 単純作業ではなく、業務の「背景・目的」を理解できる役割に。
  • AIが自動化し、人間は解釈・判断・問題発見に集中。

② AIを補完するスキル育成に注力する

  • 経験が浅い人ほどAIに依存しがちで、判断精度が下がる傾向。
  • 「レッドチーム」演習のように、AIの出力を批判的に検証する訓練が重要。
  • AIは“高速だが誤る存在”として、知的パートナーに位置づける。

③ ワークフロー全体を再構築する

  • 「AIに置き換える」発想ではなく、人間×AIの分業を最適化。
  • 人間は不確実性・関係構築・洞察が求められる領域へ。
  • 若手には対話・調査・分析・設計などの価値創造的な工程を経験させる。

④ 人材育成機能を明確に組み込む

  • プレッシャーや曖昧さに向き合う経験が、判断力・レジリエンスを育む。
  • 医療やジャーナリズムの例のように、実践を通じてしか得られないスキルは多い。
  • “挑戦を取り除きすぎる”と、人は成長しなくなる。

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“The Perils of Using AI to Replace Entry-Level Jobs,” HBR.org, September 16, 2025.

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