本稿は、2025年にドナルド・トランプ氏が米大統領に復帰し、関税引き上げや保護主義的政策を強めたことで「グローバリゼーション終焉論」が再燃している状況を踏まえつつも、世界経済の実態はそれほど悲観的ではないと論じる。著者は、グローバリゼーションの未来を楽観視できる15の根拠を提示している。
論旨の要点
1. 世界貿易は依然として成長している
2025年、世界の物品貿易は当初予測に反して加速。米国の駆け込み輸入だけでなく、中国の対米依存を補う輸出拡大などが下支えし、越境M&A比率も高水準を維持している。
2. 関税は減速要因だが、逆転要因ではない
DHLの予測では、2025~2029年の世界貿易は年2.5%成長と見込まれ、過去10年平均と同水準。米国の関税は成長率をやや押し下げるが、流れを止めるほどではない。
3. 米国一国での逆行には限界がある
米国は世界貿易の輸入13%、輸出9%を占めるが、世界全体の大半は米国以外で取引されている。米国単独でグローバル化を大きく後退させる構造にはない。
4. 他国は自由貿易を拡大
EUとメルコスールのFTA、EUとインドネシアの合意、インドと英国の協定、中国の対アフリカ関税撤廃方針など、各国は代替市場確保に動く。欧州連合とCPTPPの連携強化も、米中対立を補完する枠組みとなりうる。
5. 報復関税は限定的
中国を除けば、多くの国は米国への全面報復を控えている。自国経済への悪影響や世界貿易体制への長期的損失を回避する合理的判断が働いている。
6–9. 米国政策の持続性には制約
関税には多くの例外があり、今後も拡大が見込まれる。経済的コスト(物価上昇・雇用減速)や世論の反発、議会や司法の制約もあり、大統領権限は無制限ではない。
10. 反グローバル政策は限定的
トランプ政権は輸入と移民抑制に重点を置く一方、輸出促進や対米投資誘致は推進。完全な内向きではなく「再均衡」に近い。
11–12. 友好国間取引とリスク分散
国際貿易・投資の多くは友好国間で行われ、地政学的対立の影響は限定的。さらに「チャイナ・プラスワン」などのリスク分散は、かえって新興国への投資・貿易を拡大させる。
13. 技術革新が後押し
AI関連半導体や機器貿易は急増。WTO推計ではAI普及により2040年までに貿易は34~37%拡大。機械翻訳なども国境を越えた取引コストを下げる。
14. 多極化は機会を拡大
今後、インドや東南アジアなど新興国の経済比重が高まり、世界はより多極化へ。経済活動が広く分散するほど国際交流の機会は増える。
15. もともと「完全なグローバル化」は存在しない
国際取引は依然として世界GDPの約20%にとどまり、地理・文化・政策の制約は常に存在してきた。パンカジュ・ゲマワットのいう「グローバローニー(過度なグローバル化幻想)」に陥るべきではない。
結論
米国の保護主義的政策は確かにリスク要因だが、それだけでグローバリゼーションが終焉するわけではない。
他国の自由貿易推進、企業の適応力、技術革新、多極化といった構造的要因が、国際経済のつながりを支え続けている。
ビジネスリーダーは脅威を直視しつつも、過度な悲観に陥らず、変化する環境に柔軟に適応する視点が求められる、というのが本稿のメッセージである。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“15 Reasons to Be Optimistic About Globalization,” HBR.org, December 22, 2025.