変化と過剰な期待が常態化した現代のビジネス環境において、リーダーはすべてに「イエス」と応えるのではなく優先順位を明確にし必要なときには戦略的に「ノー」と言う能力(戦略的拒否)を備える必要がある。本稿ではその考え方と実践的なアプローチを4つの柱に分けて解説している。
すべてに「イエス」と言うことは、責任感の証ではなくリーダーシップの崩壊の兆候である。戦略的に「ノー」を言えるかどうかが成果を出し続けるリーダーとそうでないリーダーを分ける決定的な要因である。
なぜ「戦略的拒否」が必要なのか:
- リーダーは今、売上目標、業務変革、人員再編、システム導入など、過剰な課題を同時に抱えている。
- 「イエス」と言い続けることで生まれるのは、燃え尽き、エンゲージメント低下、実行力の喪失(=変化疲れ)。
- 真のリーダーシップとは、何をやらないかを決める勇気と判断力にある。
実践アプローチ①:戦略的拒否マトリックス
優先順位を見極め、どの要求にどう対応すべきかを分類するためのフレームワーク:
戦略的重要性 | 実行可能性 | 行動 |
---|---|---|
低い | 低い | 拒否し、正当性を説明 |
高い | 低い | 再交渉(支援・リソースを要請) |
低い | 高い | 優先順位を下げる |
高い | 高い | コミットして集中する |
実践アプローチ②:拒否を伝える技術(フレームワーク)
効果的に異議を唱えるための4つのステップ:
- 「ノー」の言い方を変える
→ 単なる否定でなく「何に集中すべきか」という選択肢に変換。 - 「イエス」のコストを見える化する
→ リソース制約やトレードオフを具体的に伝え、実現可能性を共に検討。 - 戦略的拒否を組織文化にする
→ プレモーテム(事前検証)、キル条件(中止基準)、レッドチームレビューなどを通じて、拒否を個人ではなく組織的なプロセスに。 - リーダー自らが拒否をモデル化する
→ 拒否をリーダー自身が実行することでチームにも優先順位づけの文化を浸透させる。
重要なポイント:
- 拒否=ネガティブではない。むしろ健全な優先順位判断とリスクマネジメントの現れ。
- 感情ではなくデータで伝えることが信頼されるリーダーの条件。
- 「最も多くを引き受けるリーダー」ではなく「最も適切に選択できるリーダー」が組織に持続可能な成果をもたらす。
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“When You’re Asked to Meet Impossible Goals,” HBR.org, May 07, 2025.