HBR Article:人材採用・育成「景気後退期の人員削減による悪影響は、労働市場にいかに波及するのか」

 景気後退期における企業の人員削減は個別企業の合理的判断であっても、累積すると労働者や労働市場に深刻な長期的損害をもたらす。危機時には、企業と政策立案者が協力して雇用の安定化・維持に取り組むことが健全な労働市場の支えとなる。

1. 背景と問題意識

  • 景気後退期(リセッション)には、多くの企業が現金確保や柔軟性維持のため、先手を打って人員削減(レイオフ)を実施する。
  • しかし、複数企業が同時にレイオフを行うと、労働者や地域の労働市場に深刻な悪影響が生じる。

2. 景気後退期のレイオフの特徴と影響

  • 通常期に比べて景気後退期のレイオフは労働者の生涯所得により大きなダメージを与える(通常期:11%減、景気後退期:19%減)。
  • レイオフは企業にとって合理的な判断でも、地域や産業全体では非効率的な結果を生む可能性がある。
  • 特に大規模企業の一斉レイオフは、地域の労働市場全体を悪化させ、長期的な所得減少や失業期間延長を引き起こす。

3. 実証分析の内容

  • 米国1994〜2020年の四半期ごとの雇用・所得データを用い、大規模全国企業の人員削減が地域労働市場に与える影響を検証。
  • 結果:雇用喪失率が1ポイント高い地域でレイオフされた労働者は、その後6年間の所得が平均4,200ドル減少。
  • 景気後退期には、企業の1件のレイオフが自社以外の労働者全体の年間所得を1万7,000ドル減少させる波及効果がある。

4. 政策・企業への示唆

  • 政策立案者は、景気後退期の雇用安定化のために介入・補助(例:欧州の短時間勤務制度、米国の給与保護プログラム)を検討すべき。
  • 企業はレイオフ前に代替策(賃下げ、一時配置転換など)を考慮することで、労働者への負担軽減と労働市場活力の維持が可能。
  • WARN法のような事前通知制度は、労働者が再就職機会を探す時間を確保し、労働市場の健全性を保つ上で有効。

5. 留意点

  • 雇用破壊により労働力が成長企業に再配置され、生産性が高まる傾向もあるが、労働者が被る損失を完全に相殺するものではない。
  • より包括的な理解には、雇用喪失の長期的影響や企業収益への波及を含めた追加研究が必要。

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