この論文は、プロジェクトを効果的に「終わらせる」ことの重要性を説き、その実践法として神経科学とマネジメント理論を統合した「4Rフレームワーク(Retire/Redirect/Repackage/Reflect)」を提示している。プロジェクトを終えることは「失敗の認定」ではなく、集中・再生・学習・成長のための再スタートである。リーダーが4R(Retire/Redirect/Repackage/Reflect)を実践することで、惰性ではなく意志に基づく推進力を持つ組織を築ける。
論文の主旨
多くの組織はプロジェクトを「始める」ことには長けているが、「終わらせる」ことには不慣れである。
その結果、価値を失ったプロジェクトを惰性で続け、資本や人材を浪費し、チームの士気を低下させる。
しかし、プロジェクトの終了は撤退ではなく、集中への回帰であり、戦略的優位を生み出す重要な経営プロセスである。
4Rフレームワークの概要
1. Retire(リタイア:終了)
- プロジェクトを静かに自然消滅させるのではなく、目的を持って完結させる。
- 文書化・予算の整理・ステークホルダーへの正式通知を行い、透明性を確保。
- チームの努力を称え、「終結の物語」を共有することで心理的完結と尊厳を保つ。
- 脳は完結を求めるため、正式な終了により次の挑戦に集中できる。
2. Redirect(リダイレクト:方向転換)
- 終了で得たリソースや人材を戦略的に再配分し、キャパシティを回復させる。
- 「キャパシティ回復ダッシュボード」で再配置を可視化し、再投資の効果を明確にする。
- これは単なる効率化ではなく、「組織の機動性の証」として位置づける。
3. Repackage(リパッケージ:再構成)
- プロジェクトの終了時に知的資産を救い出し再活用する。
- コード、設計、データ、ノウハウなどを他プロジェクトへ転用。
- 例:マイクロソフトは失敗した「Windows Phone」から得た技術を他製品に応用。
- 成果が当初と異なっても、「知のリサイクル文化」を醸成できる。
4. Reflect(リフレクト:振り返り)
- 終了後の振り返り(学びの共有)を制度化する。
- 責任追及ではなく、経験の整理と感情の整理を目的とする。
- 感謝のメッセージや知見共有セッションを通じて、心理的安全性と学習文化を強化。
- 振り返りを怠ると、未完了の感情が残り、次の挑戦に慎重・保守的になる。
組織への示唆
- プロジェクト終了は「後片付け」ではなく、戦略の一部である。
- PMIの調査によると、不十分なプロジェクト管理により投資の約11.4%が失われている。
- プロジェクト終了によって回収されるリソース・リスク削減・新たな機会創出を可視化することで、終了を組織の価値創出プロセスに転換できる。
- 適切な終結は、組織の成熟とリーダーの意思を象徴する行為である。
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“The Right Way to Sunset a Project,” HBR.org, July 30, 2025.