この論文は、「企業文化はコミュニケーション施策ではなく、仕組みと行動によってつくられる」という主張を実証的に示している。164人の上級リーダーへのインタビューと現場観察、従業員調査を通じて得られた主要な知見は次の通りである。
文化変革が成功するには、言葉ではなく構造(権限配分)・代償を伴う意思(リスク)・上層の模範(行動)の3つを同時に変えることが不可欠。
主要な発見
- 文化はキャンペーンでは変わらない
ポスターやバリュー再掲、ワークショップなどの象徴的施策だけでは効果が乏しい。2022年以降に文化改革を始めた企業のうち72%は1年後に信頼・エンゲージメント・定着の有意な改善がなかった。 - 行動の変化が効く
上級リーダー自身が会議運営・意思決定・フィードバックの仕方を変えた組織では、ブランド化キャンペーンなしに信頼スコアが平均26%上昇した。 - バリューは“代償”で検証される
値打ちあるバリューは、リーダーがそれを守るために何を犠牲にするか(報酬・権限・スピード等)で判断される。報酬制度とバリューが不整合だと信頼は低下(例:ある銀行で信頼スコアが12%低下)。一方、報酬の一部を行動/リーダーシップ指標に連動させた企業では定着率が18%向上。 - 沈黙は合意ではない
権力差のある環境では従業員は意見を出さない(調査で69%が上級に懸念を伝えていない)。形式的な匿名窓口は機能しないことが多く、逆Q&Aのように「耳の痛い質問を公に扱う」仕組みで信頼が回復(内部信頼スコアが32%上昇した例)。 - 福利厚生だけでは逆効果になることがある
実際の業務や役割、ワークフローが改善されないまま福利厚生を増やすと、従業員は“偽り”を感じ、57%がかえって悪化を報告。構造的改善(マネジャー教育・業務分担明確化等)に再投資した組織ではバーンアウトが22%低下。 - 中間管理職はトップの模範がないと機能しない
中間管理職が文化実行の負担を感じる割合が高く(例:69%)、トップの言行一致がないとバーンアウトやシニシズムが広がる。一方、上級会議の運営を変えて模範を示した例では管理職の結束が37%向上。
実務的なチェックリスト(優先アクション)
- まず上層の実際の会議・意思決定プロセスを点検する。
- ひとつのバリューを選び、その実行に伴う「何を犠牲にするか」を明示し、報酬・評価に反映する。
- タウンホール等で「現場が選んだ問い」を事前審査なく取り上げ、対応のプロセスを可視化する。
- 人気福利厚生1つを撤廃し、その予算で業務フローやマネジメントの構造的問題を解決する。
- 中間管理職を上級会議に一定回数オブザーバーとして参加させ、上層の模範を評価・フィードバックさせる。
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“To Change Company Culture, Focus on Systems – Not Communication,” HBR.org, August 25, 2025.