スコット・D・アンソニー著 Epic Disruptions では、iPhoneやトランジスタのように社会を根本から変えた破壊的イノベーションを11の事例から分析している。本稿は、その中でも料理研究家ジュリア・チャイルドの章を取り上げ、彼女がどのようにしてフランス料理を米国の家庭へ広め、料理文化に革新を起こしたかを紹介したものである。
破壊的イノベーションは、日々の小さな疑問や実験、そして挑戦する心から生まれる。ジュリア・チャイルドのように、“顧客の目線で考え、問い続け、試し続ける”ことで誰もが世界を変える可能性を持っている。
1. ジュリア・チャイルドの革新性
1950年代のアメリカで本格的フランス料理を食べるには、都市の高級レストランに行くか、本場へ行くしかなかった。しかしチャイルドは、10年以上の研究と執筆を経て 『Mastering the Art of French Cooking』 を刊行し、家庭でも本格的に再現できるフランス料理を提供した。
この結果、料理本の「左右に材料と手順を配置する」というレイアウトも標準化し、食文化において破壊的な変化をもたらした。
2. チャイルドが体現した“破壊的イノベーターの5つの行動様式”
① 顧客第一主義(Customer Obsession)
読者と同じ食材を使い、読者の視点でレシピを徹底的にわかりやすくする姿勢を貫いた。アメリカ産の食材の特徴まで調べ上げ、読者が必ず成功するレシピを追求した。
② 好奇心
魚の名称や分類が国ごとに異なる問題を徹底的に調査し、専門家や政府機関にまで問い合わせて整理。その結果、レシピ本に27ページの魚料理の章を作り上げた。
③ コラボレーション
多様なシェフと積極的に協働し、新たな技法や知識を取り込み、革新的なアイデアを生み続けた。
④ 実験への意欲
家庭用オーブンで本格的なバゲットを焼く方法を求めて30以上の実験を実施。蒸気を発生させる工夫を発見し、一般家庭でも実現可能な方法を確立した。
⑤ 粘り強さ
出版社から内容過多として出版を拒否されても原稿を書き直し続け、最終的にクノッフ社から出版して大成功。挫折を学びのプロセスと捉える「成長マインドセット」の体現者だった。
3. チャイルドが残した示唆
ジュリア・チャイルドの革新は、特別な才能ではなく、
- 好奇心
- 顧客視点
- 協働
- 実験
- 粘り強さ
という誰でも持ちうる姿勢の積み重ねから生まれた。
スティーブ・ジョブズの言葉にもあるように、「世界をつくり変えるのは普通の人」だと示している。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“What Disruptive Innovators Do Differently,” HBR.org, September 16, 2025.