HBR Article:チームマネジメント「リーダーが答えのない時代に持つべき「キャパシティ」とは何か」

 不確実性と複雑性が高まる現代において、リーダーに求められるものは、従来型の「コンピタンス(技能)」だけではなく、不安・曖昧さ・対立を受け止めながら、チームと共に意味づけを行う「キャパシティ(器)」である。本稿では、スピード・安心・コントロールへの過度な執着をアンラーニングし、立ち止まり、対話し、重荷を共有することで、組織全体のセンスメイキング能力を高める新しいリーダーシップの在り方を提示している。


1. リーダーシップの本質は「技能」から「存在」へ

従来のリーダーシップは、戦略立案、実行力、分析力、コミュニケーション能力といった「コンピタンス(技能)」が中心だった。しかし、先行きが見えない時代では、それだけでは不十分である。重要なのは、正解のない状況においても内面の安定を保ち、メンバーと共に状況を読み解く「センスメイキング」を行えるかどうかである。


2. キャパシティとは何か

キャパシティとは、複雑で緊張感の高い状況に耐え、性急に解決策へ飛びつかず、不安や対立を受け止めながら、チームと共に意味づけを行う能力である。

これは、リーダーが「答えを持つ人」であることよりも、「不確実性の中に共に存在できる人」であることを意味する。INSEADのジャンピエロ・ペトリグリエリが提唱する“Hold(受け止める)”の姿勢が、その中核にある。


3. キャパシティを阻害する旧来型リーダーシップ

多くのリーダーは、以下のような固定観念に縛られている。

  • スピード=優秀さ
  • 即答=自信
  • コントロール=安心
  • 対立回避=組織運営能力
  • 感情を見せない=強さ

しかし、こうした反応は短期的な安心感を生む一方で、本質的な問題や不安を組織の地下に押し込み、非公式な不満や静かな対立を増幅させる。結果として、組織の信頼や主体性を弱めてしまう。


4. キャパシティを育む5つの実践

① 解決を急がず「立ち止まる」

すぐに答えを出そうとせず、沈黙や内省の時間を持つ。緊張や違和感を言語化し、チームで考える余白をつくる。これはキーツのいう「ネガティブ・ケイパビリティ(不確実性に耐える力)」に通じる。

② 表面的な安心より「真実」を扱う

「大丈夫です」と安易に保証するのではなく、困難や不安を率直に認める。問題を共有可能なものへ変換する“コンテインメント(包容)”が重要となる。

③ 重荷を一人で抱え込まない

リーダー一人が全てを背負うのではなく、チーム全体で不確実性を観察・解釈・共有する。これにより、組織全体の主体性と当事者意識が高まる。

④ 対立を早く消そうとしない

対立には、組織の深層課題や価値観の違いが表れる。対立を管理するのではなく、意味を読み解く対象として扱うことで、より質の高い意思決定につながる。

⑤ 完璧なリーダー像を演じない

冷静沈着な“演技”よりも、「わかっていること/わからないこと」を誠実に共有し、共に考える姿勢が信頼を生む。重要なのは、パフォーマンスではなく“存在”である。


5. アンラーニングこそが変革の起点

キャパシティは、新しいスキルを積み上げるだけでは拡大しない。むしろ、従来の成功体験や固定観念を手放す「アンラーニング(学習棄却)」が必要である。

  • 急ぐことが正しい
  • 強いリーダーは迷わない
  • 不安を見せてはいけない
  • リーダーが答えを持つべき

こうした無意識の前提を問い直すことで、リーダーはより深く、持続可能なリーダーシップへ移行できる。


6. これからのリーダーシップ

本稿が示すのは、「正解を与えるリーダー」から、「不確実性を共に抱え、意味づけを支えるリーダー」への転換である。

リーダーが立ち止まり、不安や対立を受け止め、重荷を共有できるようになると、組織は次第に自律的に考え、対話し、意思決定できるようになる。その結果、チーム全体のキャパシティも拡大していく。

複雑性の高い時代において真に求められるのは、単なる有能な実行者ではなく、「不確実性の中でも人と組織を支え続けられる存在」である。

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