本稿は、「上司や経営幹部にコーチングを受けてもらいたい」と感じたときに、部下や周囲の人間がどのように働きかけるべきかを解説したものである。リーダーは昇進するほど率直なフィードバックを得にくくなり、自らの盲点に気づきにくくなる。しかし、コーチングを直接勧めると「能力不足の指摘」や「権威への挑戦」と受け取られる危険がある。そのため重要なのは、コーチングを問題改善ではなく、経営課題を解決するための戦略的支援として位置づけ、本人が自発的に選択したと感じられる環境をつくることである。
著者は、そのための5つのステップを提示している。
1. 抵抗の原因を見極める
まず、なぜコーチングを受け入れないのかを理解する。
主な障壁は以下の3つである。
- 「ここまで成功してきたのだから助けは不要」という自尊心
- 「コーチングは問題社員向け」という誤解
- 多忙による時間的余裕の欠如
相手の抵抗要因を誤認すると逆効果になるため、まずは観察と傾聴によって真の障壁を理解することが重要である。
2. 改善点ではなく「本人の悩み」から入る
「あなたにはこういう欠点があります」と伝えれば、防御反応を招く。
代わりに、
- チームがまとまらない
- 変革が進まない
- 取締役会から圧力を受けている
- 疲弊している
- 部門間対立に悩んでいる
といった本人が感じている課題に着目する。そして、
「そのような状況でコーチングを活用する経営者は少なくありません」
という形で、課題解決の選択肢として提示する。コーチングを「能力不足の補正」ではなく、「複雑な経営課題を乗り越えるためのツール」として位置づけることがポイントである。
3. コーチングをステータスの象徴として再定義する
多くの経営者は「コーチング=改善指導」と捉えている。しかし実際には、
- トップアスリート
- 著名CEO
- 大企業経営者
の多くがコーチを活用している。そこで、
- 優秀なリーダーほどコーチを持つ
- コーチは思考を深める戦略パートナーである
- 組織内では得られない率直な視点を提供する
という形で再定義する。また、
- コーチは自分で選べる
- 目標も自分で決める
- 内容は守秘される
と伝え、主導権が本人にあることを強調する。
4. 適切な伝達者を選ぶ
直属の部下からの提案は、場合によっては反発を招く。そのため状況によっては、
- 信頼する同僚
- 人事責任者
- 取締役
- 外部アドバイザー
など、より影響力や中立性の高い人物を活用する方が効果的である。その際は、
- 離職率上昇
- 変革停滞
- エンゲージメント低下
- 360度評価結果
など客観的な事実に基づいて議論することが重要である。
5. 期間限定で試してもらう
経営者は長期的なコミットメントを嫌う傾向がある。そのため、
- 「まず8週間だけ」
- 「8回だけ試す」
- 「合わなければやめる」
という小さな実験として提案する。これにより心理的ハードルを下げることができる。
引き際も重要
働きかけを続けるべきでない兆候もある。例えば、
- コーチングの話題で露骨に不機嫌になる
- 重要会議から外される
- 「君こそコーチが必要ではないか」と反撃される
といった反応が見られた場合は、それ以上の働きかけは自身の立場を危うくする可能性がある。その場合は無理に説得を続けず、一歩引く判断も必要である。
本稿の示唆
本稿の本質は、「上司を変えようとしてはいけない。上司自身が変わりたいと思える状況を設計せよ」という点にある。
特に経営幹部や役員クラスになるほど、能力不足の指摘よりも、
- 経営課題の解決
- 戦略実行力の向上
- リーダーシップ強化
- 思考の質向上
といった文脈でコーチングを位置づける方が受け入れられやすい。つまり、コーチング導入の成功要因は「正論」ではなく、相手の自尊心・権力構造・心理的安全性を理解したうえで、本人が自ら選択したと思える環境をつくることなのである。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“How to Convince Your Boss They Need a Coach,” HBR.org, April 10, 2026.