組織が混乱すると、最も有能なリーダーが問題を吸収し、組織を支える役割を担いやすい。しかし、その状態が続くと、他のメンバーは自ら考えなくなり、組織の適応力とリーダー本人の影響力が低下する。
重要なのは、問題を代わりに処理することではなく、構造上の欠陥を可視化し、責任と権限を本来の担い手に戻すことである。
結論として、有能なリーダーは「緩衝役」「問題解決役」「翻訳者役」から脱し、組織全体が機能する仕組みを構築すべきである。
1.有能な人物への依存が生まれる仕組み
リーダー交代、内部対立、プロセスの不全などが起きると、組織は最も信頼できる人物に問題処理を集中させる。当初は信頼に基づく役割であっても、次第に次のような依存へ変化する。
- 問題が起きるたびに同じ人物が対応する
- 他のメンバーが判断や行動を控える
- 責任の所在が曖昧なまま業務だけが進む
- 有能な人物の負担が恒常化する
- その人物がいなければ機能しない組織になる
表面上は安定していても、実際には一人の過剰な働きによって破綻を免れているにすぎない。
2.過剰機能が組織にもたらす弊害
一人が過度に多くの責任を負う状態は「過剰機能」と呼ばれる。これは個人の疲弊だけでなく、組織全体に悪影響を及ぼす。
リーダー本人への影響
- 本来の役割を超えた業務を抱え込む
- 「出しゃばる」「支配的だ」と誤解される
- 戦略的でなく、目先の業務に偏っていると評価される
- 将来を構想する時間とエネルギーを失う
- 燃え尽きや離職のリスクが高まる
組織への影響
- 他のメンバーの判断力と問題解決力が育たない
- 責任と権限の曖昧さが放置される
- 重要な知識や信用が特定の人物に集中する
- イノベーションや戦略立案が停滞する
- 当該人物が離職した際に組織機能が崩れる
有能な人物による問題処理は、短期的な安定と引き換えに、長期的な脆弱性を生み出す。
3.有能なリーダーが陥る3つの役割
緩衝役
上司と部下、部署間、組織と顧客の間にある緊張や不満を吸収する役割である。主な行動は次の通りである。
- 厳しいメッセージを和らげて伝える
- 対立が表面化する前に仲裁する
- 問題を小さく見せて周囲を安心させる
- 他者が感じるべき不快感や緊張を引き受ける
この行動を続けると、組織は自ら対立や問題に向き合う力を育てられない。
問題解決役
誰よりも速く、確実に処理できるという理由で、あらゆる課題を自分で解決する役割である。その結果、次のメッセージが組織に定着する。
- この人が最も確実に解決できる
- この人がいるため、他の人は解決しなくてよい
- 問題が起きたら本人に持ち込めばよい
リーダーの能力は高く見えるが、組織全体の能力は育たない。
翻訳者役
曖昧な方針、優先順位、責任、権限を自ら解釈し、具体的な行動に変える役割である。
- 経営層の曖昧な指示を具体化する
- 誰も決めない事項を代わりに決める
- 担当者が不明な業務を引き受ける
- 責任の所在が曖昧なまま物事を進める
この状態では、リーダーが本来持たない意思決定権まで吸収し、組織の役割分担がさらに不明確になる。
4.緩衝役をやめ、問題を可視化する
リーダーは、組織の緊張や機能不全を吸収するのではなく、その状態を組織に認識させる必要がある。実践すべき行動は次の通りである。
- 問題を解決する前に、繰り返されるパターンを指摘する
- 個別事象ではなく、背景にある構造的な問題を示す
- 責任の所在が不明確であることを言語化する
- すぐに発言せず、他のメンバーが考える時間をつくる
- 「誰がこの件に責任を持つべきか」と問いかける
確認すべき問いは次の通りである。
- 他者が経験すべき不快感を自分が取り除いていないか
- 問題を表面化させるべき時に安定させていないか
- リーダーシップではなく、救済行動を取っていないか
問題を隠さずに見せることは責任放棄ではない。組織が自ら適応する力を育てる行動である。
5.問題解決役をやめ、組織能力を構築する
有能なリーダーは、自分が多くの問題を処理することではなく、問題を解決できる人を増やすことを目標にすべきである。
実践すべき行動
- 公の場で担当者と責任範囲を明確にする
- 自分で答えを出さず、考え方をコーチングする
- 部下が自分とは異なる方法で取り組むことを認める
- 繰り返し戻ってくる課題を、依存構造の兆候として記録する
- 問題の影響と責任者を明示し、本人に対応させる
自問すべきことは次の通りである。
- 自分がやったほうが速いという理由だけで引き受けていないか
- 他者に任せられる仕事まで抱えていないか
- 自分の行動が周囲の受け身を強めていないか
短期的には成果が低下することもある。しかし、適切な責任移譲が進めば、周囲が主体的に行動し始める。
6.翻訳者役をやめ、責任と権限を明確にする
曖昧な指示や意思決定を自分で解釈して補う前に、誰が決定し、誰が実行するのかを確認する必要がある。
新たな課題を引き受ける前に、次の4点を確認する。
- この問題は本当に解決する必要があるか
- 自分が解決すべき問題か
- 自分一人で解決すべき問題か
- 自分でないなら、誰が責任を持つべきか
具体的には、次の行動が有効である。
- 意思決定者と実行責任者を明確にする
- RACIなどを用いて役割分担を整理する
- 自分の担当でない問題は、本来の責任者を明示する
- 権限が曖昧な場合は、曖昧さ自体を経営課題として提示する
- 支援はしても、責任そのものは引き取らない
物事を前に進めることよりも、正しい責任構造で進めることを優先すべきである。
7.リーダーシップの定義を変える
優れたリーダーシップとは、どれだけ多くの負担を背負うかではない。組織が自分に依存しなくても機能できる状態をつくることである。有能なリーダーは、次のように行動を転換する必要がある。
- 緊張を吸収するのではなく、組織に向き合わせる
- 問題を代行処理するのではなく、解決できる人を育てる
- 曖昧さを独自に解釈するのではなく、責任者に明確化させる
- すべてを引き受けるのではなく、担うべき役割を選択する
- 自分の成果ではなく、組織全体の自立性を高める
頼られること自体が問題なのではない。自分がいなければ組織が動かない状態を放置することが問題である。リーダーの真の価値は、問題を解決し続けることではなく、組織が自ら問題を解決できる仕組みをつくることにある。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“When Being the Most Reliable Leader Becomes a Liability,” HBR.org, February 27, 2026.