リーダーへの不満を本人の行動や能力だけに帰結させると、摩擦の真因を見誤る。問題の背景には、実際のスキル不足だけでなく、古い評判、強みへの過度な依存、組織システムとの不整合が存在する。原因を誤認すれば、効果のない行動修正を求め、優秀な人材の自信や強みを損なう。
結論として、組織はリーダーを修正する前に、具体的かつ最新の事実から摩擦の発生構造を診断すべきである。
1.個人だけに原因を求める「評価の罠」
リーダーが「決断が速すぎる」「攻撃的である」「もっと戦略的になるべきだ」と評価されても、本人が行動を変えた後も不満が消えない場合がある。その原因は、組織が次のような評価を行っているためである。
- 目立つ行動だけを問題視する
- 行動が生じた背景を検討しない
- 周囲の反応を客観的な事実と見なす
- 組織文化や制度の問題を個人へ転嫁する
- 本人を変えれば解決すると考える
たとえば、意思決定の遅い組織では、迅速なリーダーが「周囲を置き去りにする人物」と見なされやすい。本人が摩擦を生んでいるのではなく、組織の問題を可視化している可能性がある。
2.原因の誤認がもたらす損失
リーダーへの影響
- 存在しない弱点の改善に時間を費やす
- 本来の強みを抑え込む
- 自分の判断や直感を疑う
- 意欲と自信を失う
- 最終的に退職または解雇に至る
組織への影響
- 無難で同調的な人材が昇進する
- 変革を進める人材が活躍できなくなる
- 摩擦を避ける文化が形成される
- 人材育成や後継者選定を誤る
- 組織システムの欠陥が放置される
評価の罠は、一人の人材評価にとどまらず、組織の競争力を低下させる戦略的リスクである。
3.摩擦を生む4つの要因
① 本当のスキル不足
必要な能力を本人がまだ身につけていない状態である。
- 場面を問わず同じ問題が繰り返される
- 複数の関係者が最近の具体例を示せる
- 他の状況でも異なる行動を取れていない
この場合は、研修、コーチング、実践機会による能力開発が必要である。
② 過去の評判
以前の行動に基づくレッテルが、現在の評価にも残り続けている状態である。
- 評価が古い経験に基づいている
- 評価者が現在は本人と直接働いていない
- 「攻撃的」「戦術的」といった抽象表現が繰り返される
- 本人が変化しても周囲の評価が変わらない
問題は本人の能力ではなく、組織の記憶が更新されていないことである。
③ 強みへの過度な依存
かつて成功をもたらした強みを、状況を問わず使い続けている状態である。
- 決断力が高圧的に見える
- 責任感が過度な介入につながる
- 専門性が権限委譲を妨げる
- 新しい役割に移った後に問題が顕在化する
能力が欠けているのではない。状況に応じて、強みの使い方を調整する必要がある。
④ 組織システムの問題
文化、制度、権限、資源、インセンティブが、期待される行動を阻んでいる状態である。
- 戦略性を求めながら短期成果だけで評価する
- 権限委譲を求めながら、十分な人材を配置しない
- 迅速な意思決定を掲げながら、過剰な合意形成を要求する
- 挑戦を求めながら、失敗を厳しく処罰する
この場合、リーダーの行動修正だけでは解決しない。システム自体を変える必要がある。
4.真因を見極める4つのステップ
① 具体的な事例を確認する
「あの人は攻撃的である」といった印象ではなく、実際に起きた場面を確認する。
- いつ起きたのか
- 何を決定しようとしていたのか
- 本人は何を言い、何をしたのか
- どのような影響が生じたのか
繰り返された評判を、事実と混同してはならない。
② 情報の新しさを確かめる
評価者に、過去半年程度で本人の行動を直接経験したかを確認する。古い情報や人づての評判は、現在の人材判断から切り離す必要がある。
③ スキル不足と強みの過剰使用を区別する
本人が他の場面では異なる行動を取れているなら、能力不足ではなく、使い分けの問題である可能性が高い。強みを抑えるのではなく、状況に応じて調整できる行動の幅を広げるべきである。
④ 組織環境との整合性を検証する
本人に求めている行動が、実際の評価制度、権限、資源、文化と矛盾していないかを確認する。リーダーに変化を求めるなら、その変化を可能にする環境も用意しなければならない。
5.原因別に異なる対応を取る
| 主因 | 必要な対応 |
|---|---|
| スキル不足 | 能力開発、コーチング、具体的なフィードバック |
| 過去の評判 | 最新の事実による再評価、レッテルの明示的な更新 |
| 強みへの過度な依存 | 強みを残しながら、使い方と発揮場面を調整 |
| システムの問題 | 評価制度、権限、資源、意思決定プロセスの見直し |
すべてを「本人の行動改善」で処理すれば、正しい問題に対処できない。
6.優秀な人材を活かす評価へ転換する
人材評価では、次の原則を徹底すべきである。
- 抽象的な人物評価ではなく、具体的行動を扱う
- 最近の直接的な情報を重視する
- 過去の評判を自動的に引き継がない
- 高い成果と摩擦を切り分けて分析する
- 本人の強みが組織の弱点を露呈していないか確認する
- 行動改善とシステム改善の双方を検討する
リーダーに摩擦が生じた時、最初に問うべきなのは「本人は何を変えるべきか」ではない。
「問題はリーダー本人ではなく、組織による問題の捉え方にあるのではないか。」
この問いから始めることが、評価バイアスを排除し、優秀な人材の能力を最大限に活かすための出発点である。
詳細は下記参照。定期購読登録が必要です。
“Why Effective Leaders Get Branded as Problems,” HBR.org, May 07, 2026.